常識も非常識も “ナンのこっちゃい” やっぱりJAGATARAは厄介だっ 1982年 5月 JAGATARAのファーストアルバム「南蛮渡来」がリリースされた月

武道館や球場でやるバンドよりも身近に感じたイカ天バンド

80年代末にはバンドブームがあった。大学生が、高校生が、そして中学生までもがギターを持ち、ベースを抱え、黒く四角いキーボードケースを持ち歩いていた。猫も杓子もバンドを組んだ。石を投げれば、レベッカやBOØWYのコピーバンドに当たった。貸しスタジオはいつも満員、予約をとるのもひと苦労。練習したらすぐに披露。下手でもお構いなし。学園祭のタイムテーブルを奪い合い、ライブハウスをブッキング。チケットのノルマは1人30枚、買ってくれる人ならみんな友だち。なりふり構わず押しつける。来る方も物好きだ。ド素人の演奏に文句ひとつ言わずにおつき合い。耳にするのは(ぽんぽ)コピー曲ばかり。それなのに、みんな愛想良く拍手してくれる。

テレビでは通称 “イカ天”(いかすバンド天国)が大人気(1989年)。誰でも出れるし、“プロ” 審査員が褒めてくれればデビューも可能。視聴者の側でも、ダメなバンドがでてきたらなせるし、個性的なバンドなら発見の喜びがあった。なにより、武道館や球場でやるようなバンドよりも、ずっと身近に感じられた。

イカ天で忘れられない2つのエピソード

この番組で記憶に残っているのはLittle Creaturesではなく(絶対に英語でしか歌わないと宣言し、なぜ? と思ったから覚えているけど)、出演後にデビューした幾つかのバンドでもなく(たまとかビギンとか)、2つの小さなエピソードだ。

1つ目はかなり初期の放映で、或るバンドの女性メンバーが辛口の審査員にキレて「どうせこんなのやらせだろっ!」と服をぬぎ出したところでカメラがストップ。「いや、ほんとうに公平にやってますよ」なんて審査員がその前だったか直後だったかに発言していたから、やらせや出来レースでないというためのハプニングの放映だったはず。とりあえず高校生の僕は、まじめで公平な審査を信じていた。

2つ目は、或るハードロックバンドが、いきなり「ハリケ~ン!」という雄叫びを発して始めた演奏のこと。審査員の1人がプロなら歌い出しにいきなり “hurricane” なんて単語は使わないよと軽くいなした。高校生だった僕は、なるほどプロたるもの単語、意味、抑揚、アクセントなどにこだわり抜いているんだろうなと妙に感心したものだ。

健全な常識を打ち砕いたJAGATARAのファーストアルバム「南蛮渡来」

ところが、JAGATARAはそんな僕の健全な常識を打ち砕いてしまう。ファーストアルバム『南蛮渡来』に針を落とすと、唐突に「♪ あんた気にくわない!」である。いきなり「あんた」はないだろ。あんたこそ何者だ。それも「気にくわない!」だなんて。さらに「♪ くらいね、性格がくらいねぇ」ときた。「♪ みんないい人、あんたいい人、いつもいい人、どうでもいい人」とダジャレだかなんだか。しまいには「♪ せこく生きてちょーだい」と上から目線。

なめてるよ。そりゃ確かに僕はせこくて暗いし、日本生まれだし、でも日本人止められないし(国籍は変えられるけど)。いじけながらも僕はその後しばらく誰彼なく、「あんた気にくわない」なんて呟いていた。もちろん、相手には聞こえないように。やはり暗くてせこい。

規定通り、及第点のロックでは語れないJAGATARAの魅力

JAGATARAといえばもう1つ、『ナンのこっちゃい HISTORY OF JAGATARA』(全3巻)に収録されたライブのMCで(vol.2の末尾)、江戸アケミさんは、音楽雑誌に悪く書かれたのか、「評論家の言うことに耳を貸してると頭がバカになるぞ」から始めて「メディアはすべてインチキだ」、ぜんぶ「てめぇが売りたいからやってんだからよ」といい放ち、「だから人の噂を信じるな。俺はここにいるぞ、俺はここにいるんだ!おれはナンのこっちゃい、Babyナンのこっちゃーい、バイバーイ」と絶叫した。ビデオテープで何度も巻き戻してはこの場面ばかりを繰り返し観ていた僕を、妹が呆れ顔で眺めていた。

結局のところ、ロックにはこうしたら良いというような方法論は限りなくゼロに近い。プロが誠実に公平に判断し親切に助言をしたところで、やっぱり「てめぇが売りたい」のかもしれないし、いくら “やらせなし” と主張したところで、やらせでないという演出なのだ。冒頭の一句が変で誰も使わないような言葉であっても、ぜんぜんイケメンでないおっさんが歌っていても、そんなことは「ナンのこっちゃい」。そもそもすべて規定どおり、及第点のロックなんて面白いですか?

あぁ、だからやっぱりJAGATARAは厄介だ。

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※2017年1月27日に掲載された記事をアップデート

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