ほぼ昨年の体制を維持してきたホンダ。エンジニアやドライバー育成にも注目/2021年体制発表まとめ

 ここ数年、ホンダは東京オートサロン(TAS)で4輪のモータースポーツ体制を発表してきた。しかし、今年は新型コロナウイルスの感染拡大によりTAS自体が中止となったため、オンラインでの発表となった。

 まず初めにアナウンスされたのは、スーパーGT GT500の体制。本誌既報のとおり16号車には武藤英紀に代わって、昨年のスーパーフォーミュラ(SF)でルーキーながら初優勝を遂げた大湯都史樹が抜擢された。また、同チームの監督が中野信治氏から田中洋克氏に変更されていた。そのほかのチームにはドライバーラインアップと監督に変更はない。

 2020年のNSX勢は、クラス1規定に準拠したFR車両の投入初年度だったにも関わらず、タイトル獲得に加え、全8戦中4勝をあげることに成功。そうした実績を踏まえれば、ほぼ昨年の体制を維持してきたことは順当と言えるだろう。

 SFでは、昨年チャンピオンに輝いた山本尚貴が、ダンディライアンからナカジマレーシングに移籍することが発表された。昨年の最終戦直後に行われたテストで、山本がナカジマレーシングの64号車をドライブしていたのは、今季に向けた“仕事初め”だったことになる。

 その山本と入れ替わるかたちで牧野任祐はダンディライアンへと移籍。欧州で、ともにしのぎを削ってきた福住仁嶺のチームメイトとして2021年シーズンを送ることになる。ここまでを見ると、今季に向けた体制変更は『大湯のGT500抜擢』と『SFにおける山本と牧野のスワップ』がおもなトピックとも思えるが、そのほかにも注目しておきたい点がある。

 それはGT500のエンジニアの動きだ。2018年に山本/ジェンソン・バトン組を、昨年は山本/牧野組をタイトル獲得に導いた伊与木仁エンジニアに代わって、今季のチームクニミツには星学文エンジニアが招聘された。

 2011年のGT300でトラックエンジニアデビューを果たした星氏は、2014年にGT500を担当するようになってから8号車に数多くのポールポジションや勝利をもたらしてきた。2017年のSFでピエール・ガスリーを担当していたのも星エンジニアで、その実力には定評がある。

 さらに、昨年のSFでは16号車の野尻智紀車を担当する一瀬俊浩エンジニア、15号車の笹原右京車を担当するライアン・ディングルエンジニアのふたりを星エンジニアが取りまとめていた。2台の走行データをうまく共有・活用しながらレースを追うごとに戦闘力を増していき、シーズン後半には2台そろって勝ちを狙えるところまで仕立てあげた。その星エンジニアが、今季はゼッケン1の山本/牧野を担当する。

 エンジニアという視点で見れば、山本のSFにも注目したい。順当にいけば昨年からの流れで65号車の大湯を岡田淳エンジニアが担当するはずで、そうなると山本と組むのは加藤祐樹エンジニアということになる。加藤氏と言えば、一昨年のアレックス・パロウの躍進を支えたエンジニアで、国内若手エンジニアのなかでも、将来を有望視される存在だ。

 青山学院の大学院を卒業した加藤氏は、トヨタ自動車に入社し、製品企画部に配属されたが、その後、自身の夢を追い求めてレースの世界に飛び込んできた人物。その就職先が現在のナカジマレーシングで、当初はデータエンジニアとして活躍した。

 トラックエンジニアデビューは2017年のSF第4戦と、経験自体は長くないが、それでも2019年にはパロウとともにタイトル争いをしてみせた。定量的な解析に定評があり『数字でモノを語れるロジカルなエンジニア』として知られている。

 今年のホンダ陣営は、やはり昨年GT500とSFでダブルタイトルを獲得した山本を軸に見るべきだろう。GT500では星エンジニアと、SFでは加藤エンジニアとともに、いったいどのようなパフォーマンスを引き出してくるのだろうか。

昨年12月の合同/ルーキーテストにTCS NAKAJIMA RACINGから参加した山本尚貴

■岩佐歩夢のレッドブル・ジュニア加入はホンダの意思表示か

 GT500とSFに続いて発表されたのは、すでに体制がアナウンスされているインディとF1だった。佐藤琢磨のビデオメッセージが流れたあとには、2年目にして強豪チーム、チップ・ガナッシのシートを射止めたパロウからも日本のファンに向けてコメントが寄せられた。

 その後のF1では、レッドブルのマックス・フェルスタッペン、アルファタウリのピエール・ガスリー、そして7年ぶりの日本人ドライバーとしてF1を戦うことが決まっている角田裕毅からもビデオメッセージが寄せられた。

 ご存じのとおりホンダは今季限りでF1活動を終了する。フェルスタッペン、ガスリーともに、そんなホンダと走る最後のシーズンに向けた意気込みを語ってくれたが、この発表会の2日前にはうれしい驚きもあった。それは岩佐歩夢のレッドブル・ジュニアチーム入りのアナウンスだ。

 2019年のスーパーFJ日本一決定戦で勝利をおさめ、同年の鈴鹿サーキットレーシングスクール・フォーミュラ(SRS-F)でスカラシップを獲得した岩佐は、昨年、佐藤蓮とともにフランスF4選手権に参戦した。日本の2019年FIA-F4で14戦中11勝という実績を持つ佐藤が本命と見られていたが、その下馬評をくつがえしてチャンピオンに輝いたのが岩佐だった。

 岩佐にとっては「初めてのヨーロッパでのレース」だったにもかかわらず、21戦中9勝(計15回の表彰台)という圧倒的な成績でシリーズチャンピオンに輝いた。その結果、岩佐は2021年にレッドブル・ジュニアの一員としてFIA-F3を戦う資格を得た。

 ホンダは今季限りでパワーユニット・サプライヤーとしてのF1活動を終了する。これまでも参戦と撤退を繰り返してきた一方で『世界に通用するドライバーの育成』は、25年以上にわたって継続してきた。いまは角田がついにF1のシートを獲得し、岩佐がその角田に続こうとしている。たとえF1活動を終了しようとも『この流れは途絶えさせない』というホンダの意思表示が垣間見えた今季の発表会だった。

2021年にFIA-F3にデビューする岩佐歩夢
2020年F1アブダビテスト 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

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