【MLB】「大谷翔平は野球の中心になるはずだ」 元・名物実況ロハス氏が抱く特別な思い

長きにわたりエンゼルス戦の実況を務めたビクター・ロハス氏【写真:盆子原浩二】

昨季までエ軍の名物実況を務めたロハス氏にインタビュー「ショウヘイが25本塁打を打てない理由はありません」

エンゼルス戦の実況アナウンサーを引退してレンジャーズ傘下2Aフリスコの球団社長兼GMに転身するビクター・ロハスさんが、Full-Count編集部のインタビューに応じた。2010年から米放送局「FOXスポーツウエスト」のエンゼルス戦の実況を務め、大谷翔平投手が本塁打を放った際の「ビッグフライ! オオタニサン!」の名台詞で、日本のファンにも親しまれてきた。大谷や日本ファンへ抱く特別な思いを語り尽くした。

二刀流の完全復活を目指すショウヘイへ――。名物実況だったロハス氏が愛の溢れるメッセージを送った。

「ルーキーシーズンを開始した時のような姿を取り戻して欲しいと思っています。ショウヘイは野球を世界的に成長させる上で中心的な存在になるはずです。昨年はレンドンが加わり、ショウヘイのプレッシャーは更に取り除かれました。チームを引っ張る選手になる必要がなくなったわけですから。それによって、もっと気楽に構えることができればいいなと思っています」

大谷は18年10月に右肘のトミー・ジョン手術を受け、昨季は7月26日(日本時間27日)の敵地アスレチックス戦で693日ぶりに投手復帰。8月3日(同4日)に右屈曲回内筋群の損傷と診断されて打者に専念した。わずか2試合登板、0勝1敗、防御率37.80。打者としては打率.190、7本塁打、24打点と不本意な成績に終わった。ロハス氏は昨季グラウンドなどで取材はできなかったが、放送席から異変を感じ取っていた。

「ショウヘイが昨年問題を抱えていたのは疑う余地はありません。投手として離脱した時、打者に専念してシーズンを終えた数年前と同様に、打撃は大丈夫だろうと思いました。しかし、昨年ほど打席で窮屈そうに見えたことは他にありません。何が原因かはわかりませんが、過去に私たちが見たショウヘイとは間違いなく違っていました」

「もし健康で普段通りの姿に戻れば、25本塁打を打てない理由はありません。それぐらい素晴らしい選手なのです。しかし鍵となるのは、あらゆる面で100%健康な状態でいること、そして投球と打撃のバランスを見つけることです。その状態でなら一番力を発揮でき、チームを総合的にカバーできるでしょう」

父は元エンゼルス監督のクッキー・ロハス氏。自身もエンゼルス傘下で投手だった。17年オフにベーブ・ルース以来の二刀流選手としてやってきた大谷に衝撃を受けたという。「ずば抜けた才能がある若者で、とても優雅にプレーする選手です。いとも簡単にやっているように見せ、素晴らしい笑顔も見せてくれます」。人間的な魅力にも取り憑かれた。

「非常に腰が低く、優しいですね。非常に親しみやすい人物と言いますか、そう言う雰囲気がありますし、そういう振る舞い方をしています。同僚たちは彼のことが好きですし、ユーモアも好きです。そして彼がアメリカの文化に慣れれば慣れるほど、もっと人前で心地良い気分になるでしょう」

日本のファンへ「本当に素晴らしい存在でした。『オオタニサン』を認めてくれたことに感謝」

大谷の一番の思い出は、いきなり二刀流旋風を巻き起こした18年4月だ。3日のインディアンス戦でメジャー初アーチ。本拠地デビューから3戦連発し、8日の本拠地アスレチックス戦では7回12奪三振1安打無失点で開幕2連勝を飾った。19年シーズン中に亡くなったスカッグスの追悼試合で継投ノーノー、トラウトのメジャーデビュー、プホルスの通算600本塁打……。11年間、数多くの感動的な場面を実況してきたロハス氏にとっても、大谷の鮮烈なデビューは思い出に残るゲームだという。

「2つの瞬間はショウヘイがメジャーにやって来たこと、そして“本物”であるという信号を世界に向けて発信したのです」

大谷の実況には信念を貫いた。メジャー初本塁打から「ビッグフライ、オオタニサン!」と“さん付け”で呼んだ。「ショウヘイは多くの期待を受けてアメリカにやってきました。ここでの人気だけでなく、日本時代からそうだったと思います。当時のショウヘイにとってその状況がどんなものだったのかは、私には想像できません。初めてあのコールをした時、ショウヘイに対して敬意を示したかったのです」と振り返った。今もリスペクトする気持ちは変わらない。

「その当時から今に至るまで、その気持ちは変わっていません。純粋に尊敬していることを表わすもので、私はあの時の自分が『オオタニサン』と呼んだことを嬉しく思います。そして、そのコールを続けたことについても嬉しく思っています」

「ビッグフライ!」は日本のファンにもお馴染みとなった。大谷の活躍を伝える中で、日本のファンへの思いも生まれた。

「私は日本のファンが大好きです。ここ数年の間で、私や私の家族にとっても、日本のファンの方々は本当に素晴らしい存在でした。『オオタニサン』とコールすることを認めてくれたことに感謝しています。私にとってかけがえのないことです」

「日本のファンの皆さんのことは恋しくなりますね。皆さんと皆さんの文化への私の熱い思いは高まり続けます。皆さんが私を歓迎し、受け入れてくれたことは絶対忘れません。いつか私の家族を(日本に)連れていければいいと思っています。そうすれば日本の素晴らしさを存分に経験することができますし、野球の試合も観戦できるかもしれません。神のご加護がありますように」

テレビ実況から球団フロントへの異例の転身。昨季終了後にエンゼルスGMに立候補したことについては「8月に入るまでは、あまり考えてはいませんでした。パンデミックで世の人たちは生活への見方が少し変わったと思いますし、私の視点も確かに変わりました。8月末が近づくにつれて、ビジネス的側面から編成に関して球団がすべきことを私なりにまとめました。もしポジションが空くなら立候補しようと思いました」と打ち明けた。エンゼルスGM職こそ落選となったが、チームへの思い入れは変わらない。

「ア・リーグ西地区はここ数年間ほど強いチームはないと私は見ています。アストロズもアスレチックスもこれまでとは違うチームです。エンゼルスにとっては(プレーオフ進出が)現実になる可能性は大いにあると思います。鍵は投手。そして投手陣を引っ張る選手が決まるまでは、球団のフォーカスは引き続き投手になるでしょう。打線は素晴らしいですし、得点できますが、選手の強化は必要です。(プレーオフの)スポットに入ることを期待しています」

愛着たっぷりに伝えてきたエンゼルス、そして尊敬する大谷へ――。遠く離れてもロハス氏は熱い視線を送り続ける。(小谷真弥 / Masaya Kotani)

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