【ルポ】シカの痕跡探し獣道へ 南九十九島の予備調査に同行 新年度から生息状況確認

シカが木に角をこすり付けた跡を説明する小関さん(左)=佐世保市内

 農作物を荒らし、農家を悩ませる野生のシカが、長崎県佐世保市でも増えつつある。同市鹿子前町の九十九島ビジターセンター(宮本博文センター長)は、新年度から南九十九島でシカの生息状況の調査に乗り出す。13日、市内の山で実施した予備調査に記者も同行。シカの痕跡を探して獣道を歩いた。

◇苦闘の歴史

 同日午後。市内の山のふもとに、センター職員ら4人と県鳥獣保護管理員を務める小関航さん(40)、そして記者の計6人が集合。「現在猟期なので誤射されないように」。そう言って小関さんから蛍光色のベストを手渡された。緊張感で背筋に汗が流れたが、意を決して足を踏み出した。
 市有害鳥獣対策室によると、市北部の鹿町町や江迎町、小佐々町でニホンジカの生息が確認されている。2015年度、地元猟友会が捕獲した頭数は51頭だったが、19年度は189頭と約4倍に急増。タマネギの苗やミカンの木の皮をかじられるなどの農作物被害も15年度が0件だったのに対し、19年度は9件報告された。野生のシカの生息域がどう分布しているのかを把握するのがセンターの調査の目的だ。
 市によると、同市で生息が確認されている鹿町町はもともと「鹿待」と書く。シカが多く生息し、猟師が捕獲のために待機した場所-との説もあるという。地名の由来からも、人間とシカとの苦闘の歴史が想像できる。

◇足跡を発見

 「お、あったぞ!」
 草木をかき分けて獣道を進んでいると、ぬかるみに残ったシカの足跡を発見。周囲の樹木には角をこすり付けてできた縦長の跡や、俵形のふんなど次々に痕跡が見付かった。「シカの足跡は副蹄(ふくてい)(かかと部分の蹄(ひづめ))がないのが特徴」。小関さんがイノシシとシカを対比しながら解説し、メンバーは理解を深めた。

シカのふんを発見した調査隊=佐世保市内

 小関さんによると、多産のイノシシに対し、シカは1回の出産で1頭しか産まないため繁殖スピードは遅い。ただ、下草を好んで食べることから土が露出しやすく、雨天時に土砂が川に流れ込んで水生生物に影響を与えるなど、生態系への影響範囲はイノシシより大きいという。小関さんは「早めの現状把握、対策が重要なんです」と警鐘を鳴らす。
 一行は約3時間、山を歩き回ったが、野生のシカに遭遇することはなかった。今回調査した場所では生息密度が急激に高まっている状況ではなさそうだ。シカが人間の領域に踏み込んできたのか、それとも逆に、人間がシカの生息エリアを奪ってしまったのか-。そんなことを考えながら山を下りた。
 同センターは今後、予備調査をもう1回行い、南九十九島での具体的な調査場所など決める予定。

九十九島ビジターセンターが設置した無人カメラで撮影されたシカ=佐世保市内(2016年、同センター提供)

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