フィエールマンの全妹エクランドールに託された“伝説のセカンドシーズン”

【美浦トレセン発秘話】「同期のアーモンドアイとは比べものにならないかもしれない。ただ、決して強くない体質にあってGⅠを3つも勝ってくれたし、僕をフランス(凱旋門賞)にまで連れていってくれた。生まれて初めて肌で名馬を感じられた3年間は振り返れば本当に素晴らしく、もう感謝しかないですね」

これは昨年末にフィエールマンの引退が決まった際、手塚貴久調教師の口からこぼれた言葉だ。史上最少キャリアで菊花賞と天皇賞・春を制覇。天才肌のすごみとモロさが12戦のキャリアに凝縮されている。ノーザンファーム天栄から美浦に戻るたび、スレた当方さえワクワクした気分にさせる存在だったゆえ、しばし感傷に浸るのも悪くないと思ったが…。

年明け間もなく手塚厩舎を訪れると、馬房に一頭のニューフェースを発見した。あどけなさの残る無垢な顔を見れば、ひと目で新馬と判別はつく。傍らに立つ担当の田中良太助手に「めんこい子だねぇ。まだ走らせるのがかわいそうなくらい」と声をかけると、思わぬ言葉が即座に返ってきた。

「何を言っているんですか(笑い)。よく見てください。これが“噂の妹”ですから」

そう、まさに引退した兄と入れ替わるように入厩してきたのが、フィエールマンの全妹エクランドールだった。無論、サラブレッドも人間同様、天才アスリートのきょうだいすべてが天才とは限らない。84年のグレード制導入以降、両親とも同じくする全きょうだいのGⅠ制覇はわずか7例。最高峰はサンデーサイレンス×ダンシングキイの3きょうだい(ダンスパートナー、ダンスインザダーク、ダンスインザムード)で、17年のサトノアラジン(姉ラキシス)以降、全きょうだいのGⅠ制覇は途切れているが…。

「少しおなかが巻き上がって細身のシルエットはフィエールマンそっくり。カイ食いもそこまで良くない。まあ、これも兄譲りと言うのかな(笑い)。ただ、やや首の高い走法でも持っているものは良さげ。走るよコレは」

管理する手塚調教師も当然ながらイメージを重ねるのはGⅠ・3勝馬の全兄。フィエールマンと全く同じ1回東京第1週の芝千八(鞍上ルメール)でデビューが決まったのも、単なる偶然ではないだろう。

「除外確率が高そうなら土曜の未勝利(芝千八)も考えている。“ドンとこい”とまでは言えないが、既走馬相手でも勝ち負けするレベルにはあると思うからね」(同師)

競馬は血のドラマ。感傷に浸る間もなく全妹に託された伝説の“セカンドシーズン”を、しばし楽しんでみようか。

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