「ほぼ0円Jリーガー」安彦考真氏が42歳で格闘家に 閉塞感いっぱいの社会に穴を開けたい

インタビューに応じた安彦考真㊧(本人提供)

【The インタビュー~本音を激白~(7)】 社会に一石を投じるために――。「ほぼ0円Jリーガー」として話題となった安彦考真氏(42)は、39歳でプロへの挑戦を決意。40歳のときに「年俸10円」でJ2水戸に入団した。念願だったプロの世界に飛び込んだが、昨季限りで2年間プレーしたJ3YSCC横浜を退団。次なるステージに選んだのは、まさかの格闘技だった。なぜ、あえていばらの道を歩み続けるのか。連載「The インタビュー」第7回では“挑戦者”の生きざまに迫った。

――39歳で再びプロを目指し始めた

安彦氏(以下安彦)「biomサッカーコース」で週4回座学の授業を受け持っていて生徒たちには「10回の素振りより1回のバッターボックスだ」と伝えていました。でも、志を前提で始めた仕事も気がつけば生活前提の仕事になっていて、ずっとモヤモヤしていました。そんなとき、授業で話していたクラウドファンディングに生徒が挑戦しました。結果は失敗でしたが、やったこと自体は彼の人生において成功でした。

――生徒の方が行動力があった

安彦 僕はヒザからガクンと落ちるくらいの衝撃を受け、このままじゃだめだと思い「お金は捨てたい」「自分にはうそをついている」「バッターボックスに立っていないから体験談で伝えられていない」と感じました。それで一気に心が動いて、もう1回自分の人生の後悔を取り返そうと決意しました。

――そこから40歳でJ2水戸とプロ契約

安彦 最初1人でトレーニングを始めましたが、プロフェッショナルにお願いしてトレーニングを見てもらおうと思うようになりました。そのときに自分が生徒たちに話していたバッターボックスに立てると思い、クラウドファンディングに挑戦しました。4か月で約121万円集まったおかげで、おっさんの体をアスリートの体に変えることができました。

――自分に投資をしたということか

安彦 どうやったらその道のプロになれるだろうって考えていました。振り返ってみれば戦略的だったと言えますが、当時は必死でした。どうやったら「プロに近づけるか」「自分の人生を思い切り生きることにつながるのか」と。他者と比べても意味がないので、自分の武器を磨くことに専念しました。おかげで人としてはめちゃくちゃ魅力的だなって思ってもらえたとは思います。

――昨季限りで現役を引退した

安彦 シーズン前に決めました。最後を設定することで「お前はどこまでできるんだよ」「ビビってプレーするなよ」「もう最後なんだよ」っていうところをつけたかったのもあります。情けない自分とかを一つひとつ倒していきたかったっていうのもあり、Jリーガーになったので。

――引退後には格闘家転向を表明した

安彦 実はケンカがめっちゃ弱くてビビりでした。だけど、中学校のときは強いやつがカッコいいみたいなのがありました。でも、クソビビりだったので「ケンカしてきたぜ」って傷をつくって学校に行ったりしました。でも、それは家の壁でこすったやつで(笑い)。そういうこともあったので、格闘家として1対1で強い自分を取り返したいっていう憧れもあるということに最近、気がつきました。やはり本能的に格闘技をやりたいと思ったのはそこがあるんだと思います。

――格闘技イベント「RIZIN」出場を目指している

安彦 そうですね。でもページビュー稼ぎとか、フォロワー稼ぎ、お金稼ぎのためではないです。まあ、RIZINにこだわり過ぎなくてもいいわけで「安彦にルールを合わせよう」って言われるくらいで頑張らないといけないと思います。また、社会に対して右ストレートを食らわすつもりでやらないといけないと思ってます。自分のパンチ力を上げるのは、社会に対するパンチ力や衝撃を与えるためっていう意味も含めて格闘技もやろうとしているので。

――社会に対して右ストレートとは

安彦 閉塞感のいっぱいの社会に穴を開けたいです。今はテレビを見たって人の不幸で幸せを感じているような世の中。足を引っ張り合って全員ここに来なさいって平均点をつくるような社会になっています。今の世の中はルールという正解はたくさんあるけど、答えがないんです。だから、自分で答えをつくりたいんです。そのために自分で問題をつくって、自分の答えを出して、それを世の中に提唱していきたいです。僕が歩んだ道が答えではないけど、誰も歩んでいない答えがある可能性があることを伝えたいです。

――最後に格闘家としての目標を

安彦 勝ち負けじゃなくて、戦っている姿に対して、人が感動するようなファイターになりたいです。「何事も始めるのに遅いことはない。今からでも一歩踏み出してみよう」と思ってもらえるような姿を見せたいです。Jリーガーから格闘家になりましたが、目指したい自分はずっと変わっていないので。

現在の安彦氏は、格闘家としての土台づくりに励んでいる。「サッカーのときよりも実は柔軟性が必要」と体をつくり直しながら「1週間に5~7人のプロフェッショナルと毎日違うトレーニングをして自分をつくり上げています」と技術力アップに取り組む。デビュー戦については「4月か5月くらいにアマチュアの大会に出れたら」と明かしたが、見通しが立っていないことから「仲間と一緒に格闘技大会をつくって、40歳以上の人が出場する格闘技大会をつくるのもありかなと思います」と展望を口にした。

☆あびこ・たかまさ 1978年2月1日生まれ。神奈川県出身。39歳となった2017年夏に夢だったプロサッカー選手を目指すことを決意。18年3月に「年俸10円」でJ2水戸とプロ契約を結んだ。19、20年は「年俸120円」でJ3のYSCC横浜に所属し、昨季限りで引退。現在は格闘家としてRIZIN出場を目指している。また、自身の奮闘を記した「おっさんJリーガーが年俸120円でも最高に幸福なわけ」(小学館)が発売中。175センチ、74キロ。

© 株式会社東京スポーツ新聞社