勢いよく引き戸を開き、男性が駆け込んできた。
2020年11月4日夕方、東京・池袋で生活困窮者支援に取り組むNPO法人TENOHASI(てのはし)の事務所。入ってきたのは、ボランティアの坂口栄治(さかぐちえいじ)さん(42)だった。
「うれしい知らせを持ってきました」。職業訓練校の受講許可を告げる通知を手にしていた。
路上生活を経験後、てのはしに支援されて生活保護につながった。介護職の資格を取りたいと、訓練校に応募していた。
支援者やボランティアと喜びを分かち合う。その中に、順天堂大医学部3年吉田真子(よしだまこ)さん(21)もいた。体験を通じて格差など「健康の社会的決定要因」を学ぶ同大教授武田裕子(たけだゆうこ)さん(59)の基礎ゼミに所属する一人だ。この日は、てのはしなどの活動に参加。パンとおにぎりを作り、池袋駅周辺で路上生活者らに配った。
坂口さんは路上で暮らし始めて間もなく、てのはしの支援を受けた。一方、吉田さんが話を聞いた人の中には、過酷な条件で働かされて逃げてきた人もいた。
「良くも悪くも、つながりによって人生が変わるきっかけになる。いい経験になった」
活動の最後、吉田さんは実感を込めて振り返った。
◇ ◇
3週間ほど前のゼミ開始当初、吉田さんは気持ちが落ち込む日が続いていた。
困難を抱える女性の支援団体の活動を学び、居場所を無くして夜の街に出た少女たちが性的搾取の対象にされていることを知った。外国人向けの健康相談会では、慣れない土地でさまざまな悩みに直面する現実に気付かされた。
「知らなかったことも多かった。先生は『どうすればいいか』って聞いてくるけど、できることないじゃんって思ってた」。無力感が募った。
11月2日夜。東京都豊島区で子どもたちの学習支援に取り組むNPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワークの活動に参加した時のことだ。
吉田さんはネパールから来た中学3年の女子生徒を担当した。来日して1年余り。日本語を完全に理解しているわけではない。この日は、高校が開く外国人向けの進路相談会に必要な資料作りを手伝った。
所定の用紙には、氏名や家族構成などを尋ねた項目が並ぶ。表記は全て漢字。吉田さんは内容がよく理解できない生徒を手伝い、完成させた。
「ほっとした」のと同時に、別の思いも浮かんだ。「この場につながらなければ締め切りに間に合わなかったかもしれない」。支援の場の大きさに気付いた。
◇ ◇
当初の後ろ向きな気持ちは、活動を通じて少しずつ変わっていった。困難に直面する当事者と、支える人の活動を知った。何が支援になるのかを連日、ゼミの仲間と話し合った。
「誰かとのつながりが人生の分岐点になる。医者として、自分の周りにどんなきっかけの場があるのかは、知っておかなきゃいけないと思います」
基礎ゼミ終了後も継続してできることはないか、思いを巡らせている。