グラミー4冠!クリストファー・クロスはスティーリー・ダンからTOTOに変化した 1983年 1月31日 クリストファー・クロスのセカンドアルバム「アナザー・ページ」がリリースされた日

クリストファー・クロスと聞いて思い出す伝説のピッチャー木田勇

突然だが、皆さんは木田勇というプロ野球のピッチャーがいたことを覚えているだろうか?

彼は日本ハムファイターズに入団したルーキーイヤーの1980年に22勝(!)を挙げて、最多勝・最優秀防御率・最高勝率と当時の投手三冠タイトルを独占し、最多奪三振も記録した。そして、史上初めて新人でMVPを受賞したという伝説のピッチャーである。

だが、翌1981年は10勝に終わり、その後は目立った活躍ができなかった。多くの人々の記憶に留まり続けることができなかったのは、彼の成績の “尻すぼみ感” によるものだろう。ちなみに1990年に現役引退、通算60勝71敗だった。

で、僕がなぜ急に彼の存在を思い出したかと言うと、先日、僕の高校の同級生から「クリストファー・クロスのライブを観にビルボードライブ東京に行ってきた」と聞いたからだ… と言ったらさらに謎が深まるかもしれないので、少し説明しよう。

1981年グラミー賞、史上初の主要4部門同時受賞だったが…

クリストファー・クロスは、1981年のグラミー賞において、デビューアルバム『南から来た男(Christopher Cross)』とシングルカットされた「セイリング」で最優秀アルバム(Album of the Year)、最優秀レコード(Record of the Year)、最優秀楽曲(Song of the Year)、最優秀新人(Best New Artist)の主要4部門で、史上初めて同時受賞した。

しかし、1983年にリリースされたセカンドアルバム『アナザー・ページ』は全米アルバムチャート(Billboard 200)で最高位11位、続くサードアルバム『ターン・オブ・ザ・ワールド(Every Turn Of The World)』が最高位127位を記録したのを最後に、チャートインすることはなくなった。

このような彼のキャリアの “尻すぼみ感” を見て、当時の僕は、失礼ながら「まるで木田勇みたいだな」と思っていたのだった。でもこれは、裏を返せば、彼らのデビューが「とてつもなく凄かった」ということに他ならない。

何もかもが完璧! ファーストシングル「風立ちぬ」

1978年にソロシンガーとしてワーナーと契約したクリストファー・クロスは、デビューアルバムの制作にあたってプロデューサーにマイケル・オマーティアンを指名した。理由は「スティーリー・ダンのアルバムでキーボードを弾いていたから」だったと言う。

実際、このデビューアルバムのサウンドは、イーグルスやドゥービー・ブラザーズが持つ西海岸テイスト、それにスティーリー・ダンのモダンで都会的なセンスから、まるで “いいとこ取り” したかのようなクオリティの高さだった。それ故、僕は、このアルバムが80年代のベストアルバムだと思っている(実際は1979年のリリース)。

特に、ファーストシングルの「風立ちぬ(Ride Like The Wind)」は、「つむじ風が近づき、サッと通り過ぎる瞬間を感じるスリリングなイントロ(どこかで読んだ表現のパクリです。スミマセン)」も、マイケル・マクドナルドのバックボーカルも、とにかく何もかもが完璧だった。

TOTOになってしまった「オール・ライト」

ところがである。その3年後、セカンドアルバムから第1弾シングルとしてリリースされた「オール・ライト」を初めて聴いた時、僕は正直がっかりしてしまった。サウンドが何だか “マス” で “コマーシャル” な感じになってしまっていたからだ。理由は明白だった。

「風立ちぬ」と「オール・ライト」のレコーディングに参加したミュージシャンを並べてみると、「オール・ライト」ではドラムがトミー・テイラーからジェフ・ポーカロに、ベースがアンディ・サモンからマイク・ポーカロに代わり、ギターにはスティーヴ・ルカサーも加わっている。そう、TOTOになってしまったのだ。

スティーリー・ダンにも参加しているジェフ・ポーカロはまだしも、とにかくスティーヴ・ルカサーのギターは、これまでのサウンドをぶち壊すのに十分な威力を持っていた。当時の音楽ファンなら「オール・ライト」を一度でも聴けば、この曲のギターソロをルカサーが弾いているとすぐに見破ったはずだ。

「天使の声」とも評されるハイトーンボイスの陰に隠れがちだが、実はクリストファー・クロスはギターも上手で、「風立ちぬ」では彼自身がソロを弾いている。だから、高いギャラを支払ってまで他人にギターを弾かせることはなかったし、そうすればデビュー作のサウンドを維持できていただろうに… 今でも僕はそう思うのだった。

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クリストファー・クロス、グラミー賞の主要4部門を独占した唯一のアーティスト
Song Data
■ All Right / Christopher Cross
■ 作詞・作曲:Christopher Cross
■ プロデュース:Michael Omartian
■ 発売:1983年1月21日

Billboard Chart
Ride Like The Wind / Christopher Cross (1980年4月26日 全米2位)
Sailing / Christopher Cross (1980年8月30日 全米1位)
All Right / Christopher Cross (1983年3月5日 全米12位)

Billboard Chart(Album)
Christopher Cross / Christopher Cross (1980年9月6日 全米6位)
Another Page / Christopher Cross (1983年3月12日 全米11位)
Every Turn Of The World / Christopher Cross (1985年12月14日 全米127位)

※2019年6月3日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 中川肇

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