「カラスがワナに…」悩める農家 都市部・横浜で浮かび上がる事情とは

横浜市の農家の畑や市民農園が集まる一帯に置かれている、カラスを捕獲するワナ

 「農園にカラスを捕獲するワナがあるが、中でカラスが死んでいて心配です。行政が管理しているのでしょうか…」。横浜市の市民農園で野菜を栽培しているという男性(70)から「追う! マイ・カナガワ」取材班にこんな声が届いた。現地を訪れて取材を進めると、都市部の農家が抱える苦悩が浮かび上がった。

 1月上旬、ワナが置かれている横浜市郊外を訪れた。市民農園は市が設置し、趣味で野菜や果物を作る市民約500組に貸し出されている。「カアー」と鳴き声が響く。顔を上げると、電線に止まる“黒い影”が見えた。

 男性から送られた画像を頼りに、ワナを見つけた。木枠に金網を取り付けた造りで、天井にある入り口の周囲には針金がつるされ、中に入ったカラスが、羽が当たるのを嫌がって出られなくなる仕組みだ。

 近づいて視線を下げると死骸が2羽、目に入った。

 掲示には「横浜市」や「JA横浜」などの文字が並んでいた。管理者を特定するため、各方面に問い合わせてたどり着いたのは、意外にも地元の農家だった。

◆市の許可得て設置

 再び現地を訪れた。ワナが置かれていたエリアには、市民向けの農園だけでなく、地元の農家の畑も隣接して並んでいた。

 ワナを管理しているという兼業農家の男性(72)に話を聞いた。キャベツやハクサイなどを近くの直売所などで販売しているというが、「カラスには長年悩まされてきた。農家としては捕獲などの対策をせざるを得ない」と打ち明けた。

 カラスは手塩にかけて育てた農作物を食い荒らす。トマト、キュウリ、ナスなどがよく狙われ、以前は個々の農家がネットで囲って対策していたが被害が悪化。約70軒ある農家で話し合い、10年ほど前に市の許可を得て「箱わな」を設置した。各農家が交代で見回り、週に何度か片付けていたという。

 「他地域のカラス。いわばよそ者を数羽、ワナの中に入れておく。すると、この辺りのカラスが、よそ者を追い払おうと入ってくる」。男性はワナについてそう説明したものの浮かない顔だ。

 理由を聞くと、「入れておいたカラスが最近、アライグマかハクビシンの餌食になってしまって…」と悔しさをにじませた。

 ワナにはカラスの餌としてパンの耳を置いていたが、それを狙った野生動物に侵入され、カラスも餌食になったという。針金の仕掛けも、アライグマやハクビシンには意味をなさなかった。

 「今カラスを入れてもまた同じことになるし、これといった対策が見つかっていない」と一時的にワナの使用はやめているという。

◆都市農業の難しさ

 取材中、兼業農家の男性が「話を聞きたいと言われて、動物愛護関係の苦情かと思った」とこぼした。

 一帯は大規模な住宅街から近く、散歩コースにしている住民もおり、中には事情を知らずにワナを見て動物虐待のように感じる人もいるのだという。

 住宅街に近接していることで生まれた誤解なのだろう。男性は「ここの農家はみんな漁業などとの兼業で売り上げもわずか。それを守るための対策だと理解してほしい」と訴えた。

 「ワナの中でカラスが死んでいる」。そんな声から始めた取材で、都市部の住宅街に近い場所で農業を営む難しさを知った。カラスの被害を知らない住民が、ワナを不審に思うのは無理もない。一方で農家のカラス被害の悩みは切実だ。相互の理解が進むことを願わずにはいられなかった。

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