田中将大の楽天復帰はなぜ実現した? ヤ軍との交渉決裂、三木谷オーナーの大号令

楽天の入団会見に臨んだ田中将大(左)と三木谷浩史会長兼オーナー【写真:荒川祐史】

三木谷オーナーの大号令は迷うことなく「絶対獲れ」

8年ぶりの楽天復帰が決まった田中将大投手が30日、東京都内で入団会見を開いた。「正直に言えば、ヤンキースと再契約したかった」とも明かしたマー君は、なぜ楽天電撃復帰を決断したのか。そこには複雑な事情と思いが絡んでいる。

巨人・菅野智之投手の今季年俸8億円を大幅に超え、NPB史上最高額の年俸9億円プラス出来高で2年契約を結んだとされる田中(金額は推定)。この日は、「2年という契約になっておりますけれど、1年終わった段階で、球団とお話をする機会を設けていただくことになっています」と明かした。2年というのはあくまで楽天側が田中に与えた保証で、田中側が希望すれば今年のオフにメジャーへ復帰することも可能であることを示唆した。

田中は「(楽天復帰は)決して腰掛けとかではなく、本気で日本一を取りに行きたい、イーグルスでプレーしたいと心から思って決断しました。そこは生半可な気持ちでは、どの世界でも成功できないと思う」と強調しつつ、「アメリカにもやり残したことはあると思っているので、(メジャー復帰の)オプションを完全に捨て去りたくなかった」と包み隠さず語った。「アメリカでやり残したこと」とは、田中がメジャー移籍当初から目標としている「ワールドシリーズに出て、チャンピオンリング手にすること」である。

ヤンキース在籍7年で通算78勝をマークした田中は昨季オフ、自身初のFAになった。「FAになった時は、正直言ってヤンキースと再契約してプレーしたいという気持ちがありました。しかし、代理人を通じて話を聞いていると、早い段階で、これはもう別々の道を歩んでいかなければならないんだなと感じました」と振り返った。

他球団に移籍するか、日本球界に復帰するかは「今までになかったくらい考えて、悩み抜きました」と言う。「最終的に、自分がどういう環境で、どういう野球をやりたいのかを考えました。(メジャー他球団からは)物凄く高く評価していただき、大きなオファーもありましたが、再びイーグルスでプレーし、日本の方々の前で投げることに勝るものはなかった」と打ち明けた。

立花球団社長「スポーツ界は正直申し上げて、非常に厳しい状態」

プロとして日本では楽天、メジャーではヤンキース一筋に7年ずつプレーした田中は、ヤンキースに対して愛着もあれば、MLBきっての名門として勝つためにあらゆる努力と資金投入を惜しまない姿勢に共感もしていたのだろう。

一方、会見に同席した楽天の立花陽三球団社長は「スポーツ界は正直申し上げて、非常に厳しい状態です。多分、今季もかなり厳しい状態でスタートすると思います。石井(一久)GM兼監督と僕で話し合い、三木谷(浩史)オーナーに相談に上がったところ、迷うことなく『絶対獲れ』という言葉を頂いた。この決断はなかなかできる環境下になく、本当に厳しい判断だったと思います」と語った。

試合数減、開幕当初の無観客、その後の入場制限などで、昨季の各球団の経営は困難を極めた。楽天の場合も、昨季オフの契約更改の席上、各選手に昨季の収支に関するデータを開示し、理解を求めた経緯もある。球団オーナーであり、親会社のトップでもある三木谷氏の大号令がなければ、田中獲得は実現しなかっただろう。

さらに、米国の新型コロナウイルスの感染拡大は日本以上で、2月中旬に始まる予定の春季キャンプの延期も取りざたされている。そもそも、レギュラーシーズンが例年の143試合から120試合に減った昨季のNPB以上に、162試合から半減以下の60試合となったMLBは深刻だ。どれだけ試合が開催されるか予断を許さない状況は、楽天へ向けて田中の背中を押したのではないだろうか。

石井GM兼監督は「東日本大震災から10年という大事なシーズンに、田中選手が導かれるようにもう1度楽天生命パークのマウンドに立ってくれる。そういう運命を背負った、特別な選手なのかなと感じている」と感慨深げに語ったが、仮にMLBの状況が改善され、特にヤンキースが再び獲得に乗り出すようなことになれば、田中が2022年にMLBへ復帰する可能性は十分ある。だからこそ、田中のこの1年を目に焼き付けたい。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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