軽自動車の代わりとなるか、トヨタの超小型モビリティ「C+pod」に注目

2019年の東京モーターショーで「発売予定車」として展示されていたトヨタの超小型EV(電気自動車)が「C+pod(シーポッド)」という名称で発売されました。近距離の使用を想定した「超小型モビリティ」は我々の生活にどのような変化をもたらしてくれるのでしょうか。


2人乗りの近距離利用を想定

C+podは2020年9月に国土交通省が道路運送車両法の施行規則改正によって新たに区分した「超小型モビリティ」と呼ばれるカテゴリーに入るクルマです。

定義自体は非常に細かいのですが、国土交通省の資料などからわかるのは「従来までの自動車よりもコンパクトで小回りが利く、地域の手軽な移動の足となるクルマ」ということです。

新しい区分ではボディサイズや出力等に応じて3つに分けられますが、C+podはそのうちの「超小型モビリティ(型式指定車)」というカテゴリーに位置します。

近距離走行を想定していますので最高速度は時速60kmまで、さらに高速道路などの走行も出来ないことは先にお伝えしておきます。

これまでも1~2名乗車ができる電動車両は販売されてきました。しかし、ほとんどが商用利用。コンビニやデリバリーの現場で1名乗りの配達利用向け電動車両が走っているのを見たことがある人も多いかもしれません。

軽自動車よりも小さく、扱いやすい

C+pod最大の特徴はこの新区分に準じたボディサイズです。全長2.5m未満、全幅1.3m未満の寸法は現在の軽自動車よりさらにコンパクト。乗車人数を2名にしていることで、この大きさを実現していますが、狭い路地や駐車場での取り回しのしやすさは比較にならないほど楽になります。

実際トヨタのデータによれば、プリウス1台が停められるスペースにC+podであれば2台駐車が可能。また全長も従来までのクルマの全長分に対し約半分ですからその空きスペースに自転車などを置くこともできるわけです。

またクルマの小回り性能を表す「最小回転半径」に関しても軽自動車のほとんどが4m以上なのに対し、C+podは3.9mと群を抜く性能を持ちます。

満充電で150kmの走行が可能

元々超小型モビリティに属するC+podはコンパクトなボディのBEV(バッテリーのみで動く電気自動車、ピュアEVと呼ぶこともあります)なのでバッテリーもコンパクトになっています。

しかし、充電走行距離は150kmとサイズからイメージするより長めに感じますし、この数値は実際の走行値に比較的近い「WLTCモード」によるものです。

よく言われるクルマ(特に軽自動車)の使い方では「近所への買い物」「習い事や駅までの送迎」などが挙げられます。生活パターンにもよりますが、その距離自体は決して長いものでは無く、その点でも超小型モビリティは適しています。

家庭用コンセントから充電できる

C+podは200V(16A)で約5時間で満充電されます。これは従来までのEVやPHEV同様の専用の配線工事が必要になりますが、何と100V(6A)での充電にも対応しています。もちろん充電時間は約16時間と長くなりますが、前述した配線工事が不要なので専用ケーブルをコンセントに挿すだけで充電ができるわけです。この手軽さは携帯電話などの充電と同じ位の手軽さをイメージさせます。

1週間の行動パターンは人によって当然異なりますが、ビジネス利用であれば休みの日に、家庭での使用であればクルマに乗らない日もあるはずです。その時間をうまく利用し充電すれば生活の足としての非常に役立ちます。

またトヨタのPHV車同様に外出先での充電を可能にする「EV充電サポート」にも対応します。トヨタのほとんどのディーラーには「G-Station」または最新の「G-StationⅡ」と呼ばれる専用の充電スタンドが設置されています。この場合1回60分という上限はありますが、大型のショッピングモールなどに設置されている普通充電器の場合ならば上限時間は設定されていないケースが多いのです。

つまり、買い物をしている間にサクッと充電したり、前述した大型ショッピングモールで買い物のほかに映画を見て終わった頃には満充電されている、といったユーザーの使い方次第でかしこいEVライフを行うことができるわけです。

C+podは非常用電源としても使える

ここ数年の間に起きた災害ではEVなどが停電しているエリアの電気インフラの代わりとして大活躍しています。

元々EVは走るために電気を使うわけですが、これを走る以外にも利用できるのがこの外部給電という仕組みです。

緊急時などに電気を供給できるヴィークルパワーコネクターもオプションで設定します

C+podも同様に昨今のトヨタのハイブリッド車などにも設定されている外部給電システムを搭載。一番わかりやすいのが100Vのアクセサリーコンセントです。C+podは1500Wまでの給電能力を持ちますので、例えば災害時に携帯電話の充電(10W)、ノートパソコン(50w)、電気炊飯器(600w)、そして寒冷時には電気ストーブ(750w)を“同時に使う”ことも可能です。

軽自動車に代わる存在になるのか

過去の調査では家庭における軽自動車の平均乗車人数は2名に満たないというデータもあります。ただ昨今の軽自動車の性能向上は素晴らしいもので、十分ファーストカーになる実力を持っています。特に重要な安全装備も登録車と同様のレベルになっており、その点でも販売が好調なのもうなずけます。

そこで気になるのはこれらの超小型モビリティの登場により軽自動車の市場が縮小するのではないか、という心配です。

しかし、現実としては最大4名の乗車定員やシートアレンジによる積載能力の高さなどはやはり大きな魅力。さらに高速道路の走行もできますから、超小型モビリティに無い魅力を持っている軽自動車の市場がすぐに縮小するとは考えられません。

逆にモビリティの区分を細分化することでより効率的かつ社会インフラとしての存在感は増していくはずです。その点からも軽自動車と超小型モビリティは共存するのではというのが筆者の予測です。

C+podにはプリクラッシュセーフティに代表される先進安全装備も搭載しており、車両価格も171万6000円。さらにCEV(クリーンエネルギー自動車購入事業)補助金22万円(一般向けの場合)も対象になっているので実際の購入価格はさらに下がることになります。

現在は数量限定で法人向けに販売されているのでトヨタからも「ディーラーでは買えません」と告知されています。ただ2022年には一般販売がされますし、先にカーシェアリングなどで乗ることが可能になるでしょう。普段の足だけでなく、積極的な移動手段として、また今後の高齢者の生活を支える基盤のひとつとして注目したいカテゴリーであることは間違いないでしょう。

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