「打ち勝った証し」

 たたき上げの苦労人、意外な“甘党”-などと並んで語られる菅義偉首相の人物評に「ブレない人」がある。選挙のポスターにも刷り込むほどだから、ご本人もお気に入りのフレーズに違いない▲これもそんな人柄の表れなのだろうか、東京五輪に向けた“決意”の表現が就任時から変わらない。〈人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして〉〈世界に希望と勇気を〉。最近の国会答弁でも、オンラインの国際会合でも▲ところで「打ち勝った」とは、どんな状況を指し、誰がそれを判断するのだろう。ワクチンが広く行き渡ることか、感染者数が落ち着くことか、画期的な治療法の確立か▲開催を不安視する声は消えない。明けたばかりの2021年なのにもう1月が終わる。時間は待ってくれない。「打ち勝った証し」の中身が具体的に語られるべき時期だ。「ブレない」ことと思考停止は違う▲〈予防線を張る〉という言葉がある。〈失敗や、後で受けそうな非難を想定して自分に不利益が生じないよう前もって講じておく手段〉をいう▲ひょっとしたら、近未来のこんな場面を想定した高度な予防線なのか、と妙な仮説を思いついた。×月×日の首相会見。「残念なことに、人類は証しを手にすることができていません」…まさか、とは思うけれど。(智)

 


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