山本美憂が胸中を告白 MMA転向と弟・KIDへの思い

山本が格闘家のキャリアを振り返った

【The インタビュー~本音を激白~(8)】2016年8月に総合格闘技(MMA)に転向を表明したレスリング元世界女王の山本美憂(46)は格闘技イベント「RIZIN」で実績を重ね、昨年大みそかにはタイトル挑戦にまで到達した。連載「The インタビュー」第8回では、MMAデビュー以降を振り返って胸中を告白。18年9月にがんで亡くなった弟・山本“KID”徳郁さん(享年41)や昨年5月に結婚した格闘家カイル・アグォン(31=米国)のサポート、自身の引き際についても語った。

――16年リオデジャネイロ五輪出場を断念。MMAに転向した

山本 まだ「ここまでトレーニングができているから辞めたくないなあ」っていうのがあって次の目標を探していたんです。その時にMMA(転向)の話があり、ノリ(KIDさん)も同じくらいのタイミングで「体調が悪い」と。それならMMAを始めれば、ノリがコーチになって一緒にいられると思って。姉として心配だったというのがありました。

――転向後は4戦で1勝3敗とMMAへの対応に苦戦した

山本 それでもネガティブな気持ちになることはなかったですね。ただやっぱり私の勝
ちを信じて応援や指導してくれている周りに申し訳ないというのはありました。それで悔しがっていたら、ノリからは「お前のフィジカルは誰にも負けないから。自分を信じろ」って言われていました。

――その後、18年7月の石岡沙織戦から4連勝を収めるなど徐々に適応していった

山本 その試合(石岡戦)直前の6月終わりにノリの病状もあってグアムで治療することになったんです。そこでノリがコーチングできないってことで、カイル(アグォン)が私のヘッドコーチになって。

――昨年5月、カイルさんとの結婚を発表

山本 コーチとして言われたことが、すごく耳に入ってすぐできるようになったんです。静かな声だけど、必ずひと言ひと言が耳に入る。だから、この人のコーチングってすごいなって思って。そこで私とカイルはすごく合っていたと思います。

――石岡戦はKIDさんの体調悪化もあって欠場も検討したとか

山本 はい。ノリに「心配だし、そばにいるよ」って言いました。そしたら最初は「ありがとう」って言ってたけど、その日の夜に「やっぱり試合は出たほうがいい。美憂は勝てるから、勝って勝ちグセをつけてほしい」って言われたんです。それで出場しました。

――18年9月30日のアンディ・ウィン戦の直前にKIDさんとお別れした

山本(石岡戦で)私が勝ってノリがすごく喜んで、試合を見て泣いていたっていうのを聞いて、私がまた頑張ってるところを見せたらノリがもっと元気になるんじゃないかと思ってすぐ試合を組んでもらいました。それでノリに「次の試合決まったからね。また勝つよ」って言ったら「ガンバレ」って。(別れは)悲しかったけど、気持ちの糸は切れなかった。ノリに言われて「勝ちグセをつける」って決めたから。これに出て勝って、ノリに言われたことを実行しなきゃいけないって思って試合をしました。

――昨年大みそかには浜崎朱加のRIZIN女子スーパーアトム級王座に挑戦し敗れた。現役に区切りを付ける可能性はあったか

山本 自分でも、勝ってたら辞めてたんじゃないかって思います。でも、あまりにも早く(1R1分42秒)終わったし、あまりにも自分がやりたいことをできずに反省点ばっかりだったので、今は先のことは決めずにトレーニングに戻っています。もっと強くなれるのはわかっているので、トレーニングをして試合が来たら受けるっていう感じかな…。具体的にはまだ決めてないですね。

――リング外での今後については

山本 旦那のカイルがグアムで「coffee slut(コーヒースラット)」っていうカフェの共同オーナーなんです。それを東京でもオープンさせたい。あとは去年からユーチューブも始めたので、そっちもいろいろ。とにかく、やりたいと思ったことは今までと変わらずやっていこうと思います。

――ところで今、グアムに戻れない状況だ

山本 グリーンカード(米国の永住権)の申請中って、国外に出る特別許可みたいのがいるんです。それを試合に間に合うように申請していたんですけど、新型コロナウイルスの影響で手続きが遅れて間に合わなくなって…。でも試合をキャンセルするわけにいかないから出て、戻れなくなっていて、あと3か月くらいは日本にいないといけないっぽいんですよ。今は、カイルが子供たちの面倒を見てくれていて本当に感謝しています。

☆やまもと・みゆう 1974年8月4日生まれ。神奈川県出身。幼少から、ミュンヘン五輪代表の父・郁栄氏にレスリングの英才教育を受け、17歳で臨んだ91年の世界選手権で史上最年少優勝を果たした。95年に結婚を機に引退するも98年に現役復帰。その後も結婚と引退、復帰を繰り返した。2015年にはカナダ国籍を取得し、16年リオ五輪出場を目指すが、市民権の取得が間に合わずに断念。同年にMMA転向を表明し、RIZINに参戦した。現在はグアムを拠点に活動中。妹・聖子は元レスリング世界女王、弟・徳郁(故人)は格闘家。156センチ。

© 株式会社東京スポーツ新聞社