阿波野秀幸1軍投手コーチが今シーズンの投手陣を分析
沢村賞の大野雄大や試合終盤を締めたR・マルティネス、祖父江大輔、福敬登の活躍などで中日は昨年、8年ぶりにAクラスに入った。今年はどうか。1月16日、阿波野秀幸1軍投手コーチがCBCラジオ「若狭敬一のスポ音」に出演し、各投手への期待、分析、構想を語った。放送後の話も含めてここに紹介しよう。まずは大野雄について。
「自分のやるべきことを継続できたことが活躍の要因でしょう。彼は間合いが独特で足が着いて腕が遅れて来るので、ボールへの力の伝え方が課題でした。練習を繰り返して最後の一押しができるようになり、バッターを差し込めるようになりました」
絶対的なエース左腕を、今年も開幕からエースにぶつけるのか。あるいは曜日をずらし、勝つ確率を上げるのか。
「まだ開幕投手は決めていません。去年の起用は相手ではなく、コンディションを重視しました。広島の大瀬良(大地)君をはじめ、各チームのエースが離脱したので、それを避けるためにシーズン終盤は登板間隔を開けました。エース対決を避けるのは選択肢の1つです」
8勝を挙げた福谷浩司には賛辞を送った。
「彼の活躍なしでは語れません。よくぞ出て来てくれました。一昨年の腰痛を思うと、感動的です。彼はコーチ要らず。自分でプログラムして練習できる。ただ、先発経験が少ない分、今は1回から全力。だから、交代のタイミングは冷静に見極めていました」
大野雄、福谷に続く柱が欲しい。
「梅津(晃大)も力は持っています。延長10回を投げた試合は彼の負けたくない気持ちに私が押されました。ストイックなので、こちらがブレーキを掛けないといけません。まだ不安定なところがあって怪我に繋がりましたが、もう故障は癒えています」
期待の投手にも言及「去年、1軍登板ゼロの彼をなぜ北谷組(1軍)に入れているか」
柳裕也はマツダスタジアムの広島戦で交代を拒む仕草を見せる場面があった。ベンチからマウンドに向かう阿波野コーチに背を向け、センター方向に歩き出したのだ。
「気持ちは分かります。私も現役時代、コーチにボールを渡さないことがありました。ただ、怪我で離脱期間もあったので、無理をさせたくなかったんです。終盤に森下(暢仁)君と投げ合う姿を見て、評価は上がりました」。放送後には「やはり柳と梅津です。この2人が柱になると大きい」と期待。さらにもう1人名前を挙げた。
「笠原(祥太郎)です。去年、1軍登板ゼロの彼をなぜ北谷組(1軍)に入れているか。何と言っても、与田政権初の開幕投手。這い上がって、先発の枠に入って欲しいというメッセージです」
松葉貴大の存在も光る。
「よく連敗を止めて、チームを救ってくれました。彼は自分を知り尽くしているのが強み。試合前のミーティングでも発言が多いんです。特にアリエル(マルティネス)と組む日は『ゴロを打たせている時が好調だから、そういう配球で行こう』としっかり会話をしていました」
若手はどうか。
「岡野(祐一郎)の課題は左バッター。球種はあるので、組み立ての問題です。清水(達也)はフォークが得意な縦変化のピッチャー。腕さばきを覚えて、曲がる系(スライダー)をもっと操れると幅が広がります」
新人の評価は。
「やはり1位の高橋(宏斗)君は魅力たっぷり。まだバラつきはありますが、力がボールに伝わっています。2位の森(博人)君は読谷(2軍)スタートですが、ファンはがっかりしないで欲しい。150キロ以上を投げるピッチャーはこの時期に煽ると、取り返しがつかないことになるので、うまく離陸させたいんです。4位の福島(章太)君は腕の使い方がコンパクトで出所が見づらい。実戦登板まで時間がかからないかもしれません」
抑えはどうするのか。
「筆頭はライデルです。彼はうまくいかないことを自分で潰してくる。2段モーションにしたり、体をねじったり、フォームを微妙に変えるんです。こちらが理由を聞くと、必ず答えが返ってくる。よく考えています」
「1人、配置転換を考えているんです」
放送後には救援陣を分析した。
「祖父江は低めに集めてゴロを打たせるタイプ。コロナの自粛中に覚えたシュートが大きかった。福はフライアウトが多い。サイドですが、高めの強い球が特徴です。このゴロ系とフライ系、上投げと横投げ、色々なタイプが混在しているのがポイント。谷元(圭介)もスピンの効いたストレートが持ち味のフライ系。そこに横投げの又吉(克樹)。非常にいいバランスでした」
ここに割って入る者はいるのか。
「岡田(俊哉)は投球に味付けをするため、フォークとシュートに取り組んでいます。鈴木博志は守備の送球を見ていると、横回転が合っていると思い、私が促してサイドにしました。(ランディ)ロサリオと濱田達郎には左打者の脅威になって欲しい。石川翔は、“良い石川翔”と“悪い石川翔”がマウンドで混在しています。打てるものなら打ってみろとストライク勝負する時は魅力的。ただ、ボールが2つくらい続くと、制御できなくなってしまう。全球入魂タイプの山本(拓実)は1軍のつわものに対する駆け引きをもっと勉強すれば。藤嶋は切り替えが得意で、勝負度胸もあるリリーフタイプ。今後は勢いだけでなく、1球1球、生唾を飲みながら、投げることを覚えて欲しいです」
去年の中日投手陣は完投、完封、奪三振が最多で与四球が最少。しかし、課題もある。
「被本塁打がリーグ5位で、主軸にきっちり打たれています。今年のキャンプはボール1つではなく、2つ低く投げる練習を徹底します」
実に分かりやすく、穏やかに全ての質問に答えた阿波野コーチ。ただ、帰り際、一瞬だけ目が鋭くなった。そして、ボソッと秘策を漏らした。
「1人、配置転換を考えているんです」
先発転向で成功した福谷の第2弾か。はたまた、逆か。
「試合で投げる順番にも意味があるんです。見る人が見れば、ピンと来るでしょう。計画のまま終わるか、実現するか。2月11日からの対外試合を楽しみにしてください」
そう言って、ジャケットを羽織り、ニヤリと笑った。無観客で始まる今年のキャンプ。いよいよ球春到来だ。(CBCアナウンサー 若狭敬一/ Keiichi Wakasa)
<プロフィール>
1975年9月1日岡山県倉敷市生まれ。1998年3月、名古屋
大学経済学部卒業。同年4月、中部日本放送株式会社(現・株式会
社CBCテレビ)にアナウンサーとして入社。
<現在の担当番組>
テレビ「サンデードラゴンズ」毎週日曜12時54分~
ラジオ「若狭敬一のスポ音」毎週土曜12時20分~
「ドラ魂キング」毎週金曜16時~