<いまを生きる 長崎コロナ禍> バーのマスターが溶接作業? リスクに備えた働き方「ワークシェアリング」

 「もう慣れたやろ?」「だんだん楽しくなってきましたね」-。
 大村市皆同町の農業機械メーカー、田中工機の工場。田中秀和社長(44)が声を掛ける“社員”、山崎亮輔さん(32)の本業はバーのマスターだ。同社では、新型コロナウイルス感染拡大抑止を目的とした県の営業時間短縮要請に応じ、店の営業が難しくなった山崎さんを、2月7日までの期間限定で雇用している。田中社長は「コロナ禍で先が見通せない中、こうした業種を超えたワークシェアリングの重要性が高まってくる」と力を込める。

工場で作業する山崎さん(左)に声を掛ける田中社長=大村市、田中工機

 山崎さんは普段、同市西本町で「Q’s BAR」を経営。店の性質上、昼に営業したりテークアウトに切り替えたりすることが難しく、昨年春の時短要請の際は貯金を切り崩して生活していた。感染第2波が到来した夏以降、客足の減少が続き、今年に入って再度の時短要請。家賃などの経費を払うには、協力金の76万円だけでは不安が残る。「いよいよやばいな」-。そんな時、事情を知った田中社長から「良ければ手伝ってくれないか」と誘いがあった。
 社員約20人の同社。山崎さんは、金属部品を作業台に固定しロボットで溶接する作業を担当している。未経験者にも任せられ、春の収穫期を前に繁忙期を迎えている同社にとって、手が回っていなかった作業という。「慣れない仕事で不安はあったけど、本当にありがたい申し出だった」と山崎さんは笑う。
 田中社長がワークシェアリングの必要性を考えるようになったきっかけは、市内に大きな被害をもたらした昨年7月の大雨の経験。同社は佐奈河内川と郡川の決壊により、社屋や工場が最大約70センチ浸水した。人的被害はなかったが、加工用の機械設備など1億円近くの被害が発生し、3カ月弱にわたり操業できなくなった。
 「それまで『コロナで営業できない飲食業界は大変』と人ごとのように感じていたが、まさか同じような状況に陥るとは思わなかった」。そう振り返る田中社長。さまざまなリスクに備え地域の事業者が助け合う仕組みが必要と痛感した。「いつ、どこで何が起こってもおかしくない世の中。今回の取り組みで、有事の際の事業継続に向けた方策を考えてもらえれば」と、同様の動きが広がることに期待を寄せる。
 中小企業などの経営相談を受け付けている大村市産業支援センターの若杉誠司センター長も「ウィズコロナの時代、ワークシェアリングなど柔軟な働き方に対するニーズは高まるだろう」と話す。一方で、本県のワークシェアリングも含めた人材活用の取り組みは、他県と比べてまだ遅れていると指摘。「産業支援センターでもそうした取り組みを推進し、県内の優秀な人材の活用や流出防止につなげたい」としている。

 


© 株式会社長崎新聞社