<書評>『石川文洋フォトアイ ベトナム戦争と沖縄』 戦争知りたくない世代にも

 岩波書店や朝日新聞社などから優に50冊を超える著書をしたためている写真家・石川文洋が故郷沖縄の出版社から初めての一冊である。カンボジアやアフガニスタン、サラエボなど世界の戦争、紛争の現場を撮り続けた石川が沖縄での出版に選んだのは「ベトナム戦争と沖縄」である。
 1938年那覇に生まれ、4歳で家族と大阪へ。東京の両国高校定時制から毎日映画社のカメラマン助手、那覇港からオランダ船に無料で乗り、香港で下りたのは東京オリンピックの64年で、翌65年に米軍が北ベトナムを爆撃。ベトナム戦争の激化に伴って石川はベトナムでムービーカメラをまわす。この年、激戦を取材中に目の前の米軍将校が即死。また、ジープを降りるとすぐにジープが地雷で大破という従軍記者の危険な体験をしている。フリーのジャーナリストを決意した石川はこの頃にAP通信に写真(ネガ)を売って生活するためにスチール写真を撮影するようになる。報道写真家・石川文洋の誕生である。
 68年12月までの4年余りに撮ったネガ約1万5千カット。沖縄の出版社から本を出すことは石川の夢であり、ついに実現した。学校での講演会で、石川は「夢を持ってね。夢は実現します」とゆっくり語りかける。子どもを見つめるその目は優しい。それは、66年12月、ベトナム・ロクフン村に侵攻した米軍によって住民が撃たれるのを目撃する少女の表情を忘れないと決意した写真家の自負があるからだと思う。石川は写真を持参して25年後のベトナムを訪れ、少女を探し当て、今度は笑顔で「記念写真」のシャッターボタンを押す。
 本書は64年から2019年までのベトナムと沖縄の時空間が117枚の写真と30枚余の原稿用紙で構成されている「記録と記憶」の一冊である。石川の写真には必ず文字情報が添付されている。戦争と平和の実相は写真だけでは伝えきれないという思いからである。戦争を知らない、知りたくないという世代にもぜひ読んでもらいたい。
 (今郁義・批評家)
 いしかわ・ぶんよう 1938年那覇市生まれ。65年からベトナムに滞在し、ベトナム戦争の最前線を撮影した。カンボジアやアフガニスタン、サラエボなどの戦場や沖縄の基地問題の写真でも知られる。著書に「ベトナム解放戦争」「基地で平和はつくれない 石川文洋の見た辺野古」など。
ベトナム戦争と沖縄 石川文洋フォト・アイ 石川文洋 著
A5判 112頁収録写真全99点(内カラー14点)

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