【Q&A】中国「海警法」の中身は 尖閣巡り高まる緊張 日本、不測の事態発生を懸念

2013年5月、沖縄県・尖閣諸島周辺の領海で、日本の漁船(手前)の進路を阻む中国公船

 中国で2月1日、「海警法」が施行された。海上警備を担う海警局に対し、状況に応じ外国船などへの武器使用を認める内容だ。軍事力を背景に海洋進出を図る中国が、沖縄県・尖閣諸島や、南シナ海での活動を一層活発化させる恐れが出てきた。領有権を巡り対立する日本や東南アジア各国からは不測の事態発生を心配する声が上がっている。(47NEWS編集部)

 Q まずは最近の中国の動きと海警局について教えて。

 A 習近平(しゅう・きんぺい)指導部は「海洋強国」の建設を掲げ、近年は東・南シナ海で軍事的影響力を強めている。2013年、各省庁にまたがる海上取り締まり部門を国家海洋局に統合、発足したのが海警局だ。18年には軍最高機関である中央軍事委員会の指揮下にある武装警察に編入された。

  中国は、南シナ海に「九段線」と呼ぶ境界線を独自に設け、ほぼ全域に主権や権益が及ぶと主張。人工島を造成し、軍事施設を整備している。インド洋周辺にも活動範囲を広げている。

中国が人工島を造成した南シナ海のスービ礁=2016年11月撮影(デジタルグローブ・ゲッティ=共同)

 Q 尖閣周辺では、海警局の船が領海侵入したとのニュースをよく耳にする。

 A その通りだ。中国は、尖閣諸島を自国領だと言い張っている。昨年、尖閣周辺の接続水域を中国公船が航行した日数は333日に上り、過去最多となった。

 Q 新しい法律はどんな内容か。

 A 海警局の権限などを定めている。海上で中国の主権や管轄権を侵害する外国の組織、個人に対し、「武器の使用を含むあらゆる必要な措置」を取ることができるとした。

 Q 何だか物騒だ。

 A 「管轄海域」で航行、操業する外国船を識別し、違法行為があれば追跡できるとの規定もある。臨検の実施も定めており、今後、尖閣周辺の「管轄権」をアピールする可能性がある。

海警法草案を可決した中国の全人代常務委員会会議=22日、北京(新華社=共同)

 Q 他には。

 A 「航空機搭載の武器を使える」とも記している。艦船へのヘリコプター搭載や、航空機導入を進める構えだ。また管轄海域や島、岩礁に外国組織が設けた建造物を強制的に取り壊せると定めている。日本政府が管理する尖閣の灯台の撤去を理由に上陸する恐れもある。

  Q 海警局が1月に公開した写真が注目を集めたようだ。何があったのか。

 A 艦船「2501」に「76ミリの速射艦砲と軍用レーダー」(中国サイト)を取り付けていた。昨年春まで尖閣周辺を航行していた当時は搭載しておらず、日本政府筋は「法整備に合わせ、装備の強化を図っている」と見ている。

中国海警局が公開した艦船「2501」(手前)。甲板に「76㍉の速射艦砲」とみられる武器を搭載している(「微信」の公式アカウントから、共同)

  Q 中国は海警法についてどう説明しているのか。

 A 中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道局長は「国際慣例と各国の実践に合致している」と主張している。

 Q 本当にそうなのか。

 A 外国の軍艦や公船への強制措置を認める規定や、管轄海域の範囲があいまいなことについて、国際規範を逸脱しているとの指摘が出ている。

 Q 各国の反応は。

 A 中国と領有権を争う東南アジア諸国は警戒している。ベトナムのグエン・フー・チョン書記長は「独立と主権を守り、国の発展のために平和で安定した環境を維持する」と強調。中国への過度の刺激を避けてきたフィリピンも「もし問題視しなければ服従することになる」(ロクシン外相)と危機感を示している。

 Q 日本政府は。

 A 茂木敏充外相は1月29日の記者会見で「法律が国際法に反する形で適用されることがあってはならない。冷静かつ毅然(きぜん)と対処したい」とコメント。自民党内では「尖閣を狙い撃ちにした条文だ」「脅し以外の何物でもない」との意見が噴出した。不測の事態に対応できるよう法整備を求める声も上がっている。

菅義偉首相、バイデン米大統領(AP=共同)

 Q 新政権が誕生した米国の動きが注目される。

 A バイデン大統領は先月、菅義偉首相との電話首脳会談で、尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用対象だと明言した。この条文は米国の対日防衛義務を定めており、日本の施政下への武力攻撃に対し、日米が「共通の危険に対処する」と明記している。

 バイデン政権が対中融和に傾くのではないかとの日本政府側の懸念を払った形だ。首脳間では、海洋進出を強める中国を念頭に、米国のインド太平洋地域でのプレゼンス(存在感)強化が重要だとの認識も共有。菅首相は「バイデン氏と信頼関係を構築し、国内外の問題を前に進めたい」と強調している。

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