規模は男子の1/20、最高年俸1000万円…元NPB戦士が掲げる女子野球“プロ化”の夢

昨年発足した埼玉西武ライオンズ・レディース【写真:佐藤直子】

埼玉西武ライオンズ・レディースの新谷博監督が目指す“あり方”

野球人口の底辺拡大を願い、Full-Countでは女子野球の「今」を伝える連載を随時展開している。第3弾は、昨年春に発足した埼玉西武ライオンズ・レディース。初めて誕生したNPB公認チームの新谷博監督は、女子野球が目指すあり方について熱弁を振るう。

2006年から尚美学園大女子硬式野球部で指揮を執り、日本代表監督も経験した新谷監督。女子野球に長く関わり、現場を知り尽くした元プロ野球選手は、活性化に向けて様々な構想を温めている。

「そりゃ、純粋に野球を見るならNPBが一番面白いですよ。でもNPBにはできない、いや、NPBじゃないからこそできる野球があると思うんですよね。そっちにシフトしていかなきゃいけないんじゃないかな。先日はBCリーグの代表と、BCリーグと女子野球を一緒にやろうかという話もしました」と既存の枠組みを越えた活動を視野に入れている。

設立1年目の昨季、すでにチーム内に1、2軍制を導入して固定概念を破った。今年は新しいリーグ戦を模索している。現在、関東女子硬式野球リーグ戦(ヴィーナスリーグ)には1部から4部まで合わせて39チームが参加。尚美学園大の初出場から14年が経ち、当初それほどなかった力の差が大きく開いた。「最初は高校生と大学生と社会人が同じくらいだったんですけど、今やもう全く違ってしまった。見ていてつまらないと思うんですよね、弱い者いじめみたいになってしまって」と現状を憂う。

新たなリーグ戦は前後期に分け、本格的に動き出す後期については1チームあたり30~40試合を行う計画だ。選ばれたチームや選手だけが参加できるトップリーグ的な位置付けかと思いきや、新谷監督の狙いは違うところにあった。

「誤解してほしくないのですが、上手い子たちが集まるというよりは、今までの女子野球の1年間の流れを変えたいと思っています。ひとつの大会で盛り上がって終わりというのではなく、1年間試合をし続けた中で勝敗を決したい。土、日はいつも女子野球がやっているという環境を作りたい。でも、そうなると、ある程度の人しか対応できないんですよ。土曜日はできませんとか、毎週は無理ですとか言う子も多いので。実際にどれだけのチームが参加できるのか。選抜チームとか補強選手とか、今いろいろな案が出ているところです」

埼玉西武ライオンズ・レディースの新谷博監督(左端)【写真:編集部】

昨年は西武、今年は阪神が“参入”、「ほかのNPBの球団も…」と期待

実現すれば「女子野球をこれからはエンターテインメントにしていきたい」という発想の実践の場になる。「あそこのグラウンドに行くと、本当に楽しいんだよねと感じてもらう空間。その中に野球があるというものを目指したいです。試合が終わったら、グラウンドに降りてきて、みんなで一緒に遊ぼうとかね。子どもたちがいっぱい来てくれるといいな」と語る。

プロ野球界においても、女子野球普及の動きは活発になっている。昨年の西武に続き、今年は阪神が「阪神タイガーズWomen」をスタートさせ、元女子プロ野球の選手を中心に17人と精鋭が集まった。「ライオンズとタイガースのユニホームを着て試合をやったら、今の女子野球界ではNo.1マッチですよね。ほかのNPBの球団もどこか手を挙げてくれるかなと期待はしています」とさらなる拡大に希望を抱く。

これまでも巨人が関東女子硬式野球リーグ(ヴィーナスリーグ)、阪神が関西女子硬式野球リーグ(ラッキーリーグ)を支援してきた。「NPB関係者で注目してくれている人は結構多いです。今は遠巻きながら、どんな感じかなくらいには見てると思うんです。だから、ライオンズとタイガースが成功させないと後に続かないと思っています」と発展途上にある女子野球界の先頭を走る覚悟だ。

今は全員が無報酬で活動するクラブチームだが、いずれはプロ化の夢も持っている。「目指しています。僕が生きている間にできるか分かりませんが(笑)。男子の20分の1くらいの世界でできたら。最高年俸で最初は1000万円もらえたらいいかな」と語る。

イメージするチーム数は4チーム。「12球団は無理ですよ。トッププレーヤーがそんなにいないので、レベルが保てなくなる」。女子野球の現状を知り尽くしている新谷監督だからこそ口にできる具体的な数字だ。「面白い子が集まっているから楽しみ」というライオンズ・レディースの選手たちとともに、将来のプロ化を見据えて新風を吹き込んでいく。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

© 株式会社Creative2