​​子どもが楽しく学ぶには「教える内容」の“ソフト”だけでなく「環境」という“ハード”も必要

第二次緊急事態宣言が発令される中で、竹内薫先生が校長を務める でも、いろいろな対策が余儀なくされました。中でも「ハード」である教室を大きく変えることにしたようです。その理由はどこにあるのでしょうか。

第二次緊急事態宣言中の学校の様子

第二次緊急事態宣言中の学校の様子について書いてみたいと思います。

前にも書きましたが、YES International Schoolは、第一次緊急事態宣言中は全面的にオンライン授業に移行しました。一部で脆弱性が指摘されていたZoomの活用についても、社内(学校内)会議という形を取り、会議開始時にURLが決まる仕組みを採用し、万全を期しました。

でも今回は、前回とは大きく状況が異なります。まず、政府が休校要請をしなかったこと。これにより、大学を除いて、ほとんどの小中高校では、対面授業を続けています。YES International Schoolでも、協議を重ねた結果、次のような方針を決めました。

ウチは全校生徒が40名以下という、普通の公立学校の一クラスにも満たない小所帯ですが、常勤の先生の他に外部講師(=その道のプロの方々)に大勢、来ていただいています。また、生徒一人ひとりのために時間割を作るため、上記の1から3を充たすためには、気が遠くなるような調整が必要になります。

A先生が混まない通勤時間帯にスライドしたり、生徒Bが朝の授業に出られなかったりすると、全体のスケジュールに影響が出てしまいます。まるで数学の難問を解くようにして、微修正を入れながら、生徒一人ひとりの時間割を作るしかありません。

私は昔、広告出稿の最適化プログラムを書いて販売していたことがあり、時間割も似たようなものだと思っていたのですが、制約条件が変動しすぎて、こればかりは、プログラムよりも人間が相談しながら作ったほうが早いことが判明しました。

先生の申告が急に変わって「やっぱり8時半ではなく10時出勤でないと安心できない」とか、「会社がテレワークになったので、もう少し早めの時間に子どもを登校させたい」など、時間割作成の条件が常に変わってしまうのです。

さらには、自宅にいてZoom授業だけを希望するご家庭や、海外からの受講まであり、主に時間割作成にかかわってくれたスタッフにはボーナスを出したいくらいです。

教室という「ハード」の設備も大切

さて、新教室についてお話ししましょう。

実は建築家の保護者が、ボランティアで新教室の内装をデザインしてくれました。これまでYES International Schoolは、どちらかというと「ソフト」に力を注いできました。やる気があり、能力の高いスタッフに来てもらい、暗記よりも探究を大切にし、プロジェクト型の授業を進めきたのです。生徒も、ただ座ってノートを取るような形式ではなく、自分で考え、工夫して発表する力をつけてもらうよう努力してきました。

でも、「ハード」の整備がおろそかになっていたことは否めません。先生の居場所も、3教室に分散しているものの、お世辞にも使い勝手がいいとは言えませんでした。生徒の椅子や机も、とにかく、必要に応じて既製品を購入してきたので、統一感がありません。

残念ながら、私の書いている記事を読んで見学に来てくれた保護者も、「教室がイメージしていたのと違う」という理由で、入学を断念される方が(それなりに)いらっしゃいました。

そこで、若手建築家として活躍されている高橋良弘さん(+333architects)にお願いをして、YES International Schoolらしい「空間」をデザインしてもらうことになったのです。

新教室のコンセプト

本校に娘が通っているご縁で、改修計画に携わらせていただくことになりました。重視したことは、教室という固定概念をはずし、こどもの「居場所」として空間をデザインすることでした。

具体的には、次の3つのことを目指しました。

1. 心地のいい場所が複数あり、選べること

教員や生徒が、自発的に居場所を選べるよう、特徴の異なる複数の居場所を用意しました。リビング・キッチン・ダイニング・オフィス・ラウンジなど、家のようなスケール感の空間を用意したのです。

2. フレキシブル/モバイルであること

日々変化する授業に対応できるよう、机・椅子は可動式としました。また学校が移転した場合も、建材が再利用できるように、床材や壁材は、着脱可能なディテールを採用しました。

3. こどもたち・教員が学校づくりに参加すること

生徒・保護者が参加できる工事についてはワークショップ化し、学校づくりを体験してもらいました。また、完成後も学校づくりに参加できる仕掛けとして、教員がセレクトする本棚、保護者用の掲示板、教員用の掲示板などを用意しました。

家のような空間、建材が再利用できる、みんなが参加して教室を作ることなど、いろいろと学ぶことが多かったように思います。特に、ワークショップで、生徒、保護者、そして私のカポエイラ仲間(YESの教室で練習している仲間たちと先生)が、土日に教室作りを手伝ってくれたことは、「みんなのYES」という願いが素敵な形で実現したのだと感じています。

高橋さんの建築デザインのコンセプトに触発されて、YES International Schoolの教育内容について、ここのところ自分なりに再考してみました。

この学校のコンセプトは、

です。学校のロゴがペンローズ三角形(不可能図形)になっているのは、3つの言語が不可能を可能にする、という意味を込めてのことです。

これまでの暗記教育から脱却し、生徒には、AI時代を生き抜く力を身につけてもらいたい。AI時代にも人間がやり続ける仕事は、現在の約50%。生徒には未来社会を引っ張って行ってもらいたいのです。

でも、保護者の中には、他の学校でやっている暗記型のドリルが少ないことに不安を覚えたり、先生の中には、教職課程で習ったことがない探究授業に拒否反応を示したりする人もいます。しかたありませんが、大人が頭を切り替えないと、子どもがかわいそうです。

驚くべきことに、YES International Schoolにおいて、生徒に端を発するトラブルは、これまで、数回しかありませんでした。つまり、生徒たちは、時に叱られたりしながらも、楽しく探究学習を続けているのです。

いま学校が直面している問題

さて、いま学校が直面している問題は、リアルな授業体験や見学の数を絞らなくてはいけないこと。

コンセプトが既存の学校と大きく異なるのですから、実際に授業を体験してもらわなければ、親も子も入学に踏み切ることはできません。でも、第二次緊急事態宣言のせいで、リアルな体験が難しい状況です。

そこで、ウチの学校の強みを活かして、Zoomで授業体験をしてもらう企画を立案中です。リアルな授業に外部からネットで加わってもらい、適宜、先生ともやりとりをしてもらうことが可能です。また、初めてで怖いという場合は、Zoom講演のように視聴するだけでもいいと思います。

すでにYES東京校では、全国各地へZoomで授業配信をしていますが、横浜校はこれまで在校生にしかZoom配信をして来ませんでした。そこで、まずは、入学を検討してくれるご家庭に体験授業を配信することにしたのです。

最後にもうひとつニュースがあります。Manai Juniorで科学実験やプログラミングの指導をしていた小正理文先生がYES International Schoolに合流してくれました。新型コロナで社会の変動が激しい中、同じ志を持った仲間が一緒になって活動を続けることは、ウィン・ウィンの関係の構築だと考えております。小正先生は、午前中はYES横浜校、午後はYES東京校で教えてくれるので、両校の橋渡しの役割を担ってくれそうです。

今回は、新型コロナ禍の中で奮闘するYES International Schoolの近況について書きました。まだまだ新型コロナは収束が見えず、先行き不透明ですが、読者のみなさまも、どうか、ご自愛ください。

YES International School

これまでの【竹内薫のトライリンガル教育】は

© Valed.press