【きさらぎ賞】あっさりVのワールドエースを称したピンチヒッター・小牧太の軽妙トーク

予定外の出走でもあっさり勝利したワールドエース

【松浪大樹のあの日、あの時、あのレース=2012年きさらぎ賞】

1998年のスペシャルウィークもそうでしたけど、2012年のワールドエースも賞金加算をもくろんでいたレースで上積みができず、予定外の出走になったきさらぎ賞を勝っちゃったパターンの馬です。どちらも1番人気での勝利。資質の高さは誰もが知っていたので、予定外の出走ではあっても重賞制覇は既定路線と言えなくもないのですが、そういう背景があったのは事実です。

スペシャルウィークの取りこぼしは「相手を軽く見てしまったがゆえの仕上げの甘さ」だったようですが、ワールドエースの場合は少頭数にありがちな超スローペース。2着に惜敗した若駒Sは5頭立てで1000メートル通過が65秒4と遅く、ワールドエースは上がり最速で追い込んだものの、楽に逃げているゼロスを捕らえることはできませんでした。

直線だけの競馬になったので疲れが出ることもなく、詰まった日程でも出走にゴーサインが出た──こんな経緯だったでしょうかね。それは主戦の福永祐一騎手が東京遠征で騎乗できず、小牧太騎手にピンチヒッターを頼んでいることでもわかると思います。

きさらぎ賞のレース自体は実にあっさりしたものでしたね。強いとは思ってましたけど、こんなにも強いのか…と。2着ヒストリカルとの差は1馬身半で上がり3ハロンの数字もヒストリカルのほうが上だったんですが、そんな感じがまるでしなかった。小牧太騎手は「思ったよりも先頭に立つのが早かったね」と言ってましたが、それでも直線入り口のポジションは13頭立ての8番手。抜け出してくる瞬間の脚が予想よりも速かったということでしょう。ホント、あっという間に先頭に立ってましたから。

「なかなか乗ることのできない馬の乗り味。オルフェーヴェルみたいやったよ。オルフェーヴェルには乗ったことがないけど(笑)」というレース後のコメントが実に小牧太騎手らしいもので、そこにいた記者一同とてもほっこりした記憶がありますね。

「ディープインパクトみたいでしたね」と父の名前を出して話を振ったのに、それを否定して同じ厩舎というだけのオルフェーヴルを出してきたあたりのセンスの高さ。しかも、あのオルフェーヴルの馬名を微妙に間違えるところがまた最高です! このユニークさが小牧太騎手の魅力と勝手に思っています。

これに似た話が過去にもあったんですよ。それは2012年きさらぎ賞から1年ちょっと前に行われた京都の新馬戦。サクラシオンという羽月厩舎の馬で勝ったのですが、検量室に戻ってきた小牧太騎手が「この馬、相当に走ると思う。まるでウオッカみたいやったもん。まあ、ウオッカには乗ったことがないんだけど」と。厩舎や血統にゆかりがないだけでなく、自身が乗ったわけでもないので普通は比較対象に選ばないはず。でも、それをサラッと言えてしまうのがいいんですよね。

実際、サクラシオンは「ウオッカくらい走るらしいよ」とちょっとした話題になったんです。3か月ぶりのキャリア1戦馬が忘れな草賞で1番人気になったのもそれが理由だったのかもしれませんよ。

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