〝レジェンド〟法華津寛キッパリ「安全な五輪開催ほぼ不可能」「最高齢出場に未練なし」

東京五輪への思いを語った法華津寛

新型コロナウイルス禍で今夏の東京五輪開催の行方が混迷を極める中、アスリートたちは不安を募らせている。なかでも気がかりなのは来月に誕生日を迎え、五輪史上最高齢出場(80歳4か月)の大記録樹立がかかる馬術の法華津寛(79)だ。昨年7月に「東京五輪中止せよ」と本紙で提言した元外資系医薬品会社社長の〝生きる伝説〟は、東京が「ステージ4(感染爆発)」の状況下にあって何を思うのか。改めて胸中を聞いた。

前回の東京大会(1964年)にも出場し、昭和、平成、令和の3時代五輪出場というとんでもない記録がかかるレジェンド。ポルトガル・カスカイスで、7年もパートナーを組むザズー(16歳)とともにトレーニングを積んでいる。五輪をめぐる緊迫した現状をどう受け止めているのか?

法華津「昨年3月、五輪の延期が決まった時は『ああ、これでもう1年、馬に乗っていられるな』と思ったものでした。その後のヨーロッパ、米国のコロナの感染状況を見ていて今年(2021年)の五輪開催は無理だろうと思っていましたが、馬術というスポーツは犬を飼っているようなもので、毎日必ず馬に運動をさせてやる必要があり、五輪があろうがなかろうが毎日馬に乗らなければなりません。一度、馬にまたがってしまうと少しでも馬の柔軟性や筋力を上げ、演技力を高める努力を始めてしまうのです。毎日がこれの積み重ねでこの1年を過ごしてきました」

来月28日で80歳。同学年にはプロ野球ソフトバンクの王貞治会長、大相撲の〝昭和の大横綱〟こと故大鵬さんらがいる。いまだ現役というのが信じられないが、競技への意欲は衰えていない。

64年の東京大会に23歳で出場後、08年北京大会に44年ぶりに出場(67歳)。12年ロンドン大会で日本人最高齢出場(71歳)を果たした。馬に乗る傍ら、東京大会後はスイスの製薬会社の米国法人や日本法人で勤務し、86年には外資系医薬品会社「オーソ」(現オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス)の社長に就任するなど、医療事情には精通している。それだけに現状の「ワクチン問題」には思うところがある。

法華津「ここへきて日本の状況もヨーロッパ並みに悪くなり、ワクチン接種に関しても承認申請を出しているのはファイザーのみ。仮に2月末からワクチン接種が始まったとしても、米国、イギリスに遅れること約2・5~3か月。両国が開始から複数社のワクチンを接種しているにもかかわらず、1月末の時点で1回目の接種ができているのは人口の約7~10%と推測されます。日本がこれより迅速に接種できたとしても、この夏、国民にとって安全な五輪を開催することはほぼ不可能だと言わざるを得ません。と、考えつつも、五輪のあるなしにかかわらず、毎日自分と馬のトレーニングに励む今日このごろです」

日本政府、大会組織委員会は「ワクチンがなくても安全な大会」を推し進めるが、法華津は冷静かつシビアに現状をジャッジ。それを踏まえ、最後にこの質問をぶつけてみた。仮に中止となれば、五輪史に残る金字塔は〝幻〟となる。そこにジレンマはないのか。

法華津「私は幸せにも、この年まで健康で馬に乗ってこられたので、今年の五輪に出られれば最高齢出場ということになるのでしょうが、それに対する未練は全くありません」

本当に開催されるかどうかは、神のみぞ知る。それでも腹をくくったレジェンドは、夢舞台へ向けて歩みを止めることはない。

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