早期中断したNASA新型ロケット「SLS」の燃焼試験、2月下旬に再実施

1月16日に実施されたSLSコアステージ1回目の燃焼試験で稼働する4基のRS-25エンジン(Credit: NASA)

アメリカ航空宇宙局(NASA)は1月29日(現地時間、以下同様)、去る1月16日に実施された新型ロケット「SLS(スペースローンチシステム)」を構成するコアステージのエンジン燃焼試験「ホットファイア(hot fire)」について、2月下旬にも2回目の試験を実施する予定であることを明らかにしました。

SLSは有人月面探査計画「アルテミス」などで用いるべく開発が進められている大型ロケットで、並行して開発中の新型宇宙船「オリオン」などの打ち上げに使用されます。その中核となるコアステージには2011年に退役したスペースシャトルに搭載されていた「SSME」の改良版である「RS-25」エンジンが4基搭載されています。

ホットファイアは全部で8段階に及ぶコアステージの地上試験「グリーンラン(Green Run)」の最終段階にあたり、4基のエンジンを実際の飛行時間と同じ8分強、最低でも約4分間に渡り稼働させることで飛行中のコアステージ全体のパフォーマンスをシミュレートする試験です。ところが1月16日に実施された試験では、点火から1分7秒が経った段階でエンジンが自動停止されていました。

NASAによると、予定よりも早くエンジンが停止したのは、エンジンの推力偏向制御(TVC:thrust vector control)を担う油圧システムが事前に設定・計測されていた制限値を超えたためとされています。ロケットのエンジンは飛行を制御するために噴射方向を変えられる(推力偏向)ようになっている場合があり、SLSコアステージのRS-25では2本のアクチュエーターを使ってエンジンの姿勢を変えています。ホットファイアでは推力偏向制御システムも稼働していたのですが、4つあるエンジンのうち第2エンジンの油圧システムが地上試験のため保守的に設定されていた制限値を超えたことで、エンジンの自動停止に至ったといいます。

発表によると、2月下旬に予定されている2回目の試験に向けてこの保守的なパラメータが更新されたとのことです。これに加えて、前回試験時の自動停止とは関係がないものの、エンジン点火開始から約1.5秒の段階で検知された第4エンジンに関連した一部配線の故障についても修理が完了したとされています。また、極低温の推進剤(液体水素と液体酸素)を充填・加圧することはコアステージの構造にとって負担となりますが、NASAは現在試験中のコアステージについて設計上あと13回の負荷サイクルに耐えられるとしており、ホットファイアをはじめ発射台上でのリハーサルや打ち上げ延期にも対応可能としています。

なお、試験後のコアステージとエンジンの補修には約1か月を要するとされており、2回目の試験を無事に終えたとしても、コアステージをケネディ宇宙センターへ移送してSLSを構成する他のハードウェアやオリオン宇宙船と統合できるのは3月下旬以降ということになります。今年11月に予定されているSLSおよびオリオン宇宙船の無人飛行試験にあたる「アルテミス1」ミッションへの影響が懸念されるだけに、再試験の成功が期待されます。

SLSの構成を示した図。赤枠で囲んだ部分がコアステージおよび4基の「RS-25」エンジン(Credit: NASA、赤枠は筆者による)

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Image Credit: NASA
Source: NASA
文/松村武宏

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