2022年新設ドローン操縦ライセンス制度導入ガイド

改正航空法施行直前の2015年10月、民間でドローンのライセンスが創設され本格的なドローンスクールも開設されました。筆者も2016年4月からドローンスクールで講師を続けていますが、近ごろ気になるニュースが…。"2022年から国が認証するドローンの「操縦ライセンス(免許)」制度が新設"されるというものです。

「操縦ライセンス」制度が導入されると、法律や環境はどのように変わるのでしょうか?そこで今回は、気になるドローンパイロット環境の近未来についてざっくりとまとめてみたいと思います。

なぜ必要なの?操縦ライセンス制度導入の背景

■操縦ライセンス制度新設の経緯

2015年11月、当時の安倍首相による「ドローンを使った荷物配送を可能とすることを目指します」という発言がスタートとなります。

その後「小型無人機の環境整備に係る官民協議会」にて提言された「小型無人機の利活用と技術開発のロードマップ」において2022年度を目処にレベル4(都市部などの有人地帯での補助者なし目視外飛行、「都市部におけるドローン物流」などがあたる)を実現する…という計画に基づいてさまざまな分野が動いています。新設される「操縦ライセンス」もそのひとつです。

■操縦ライセンス制度の狙い

現在は"有人地帯での補助者なし目視外飛行"は禁止されており、レベル4の実現は新たなドローン飛行の社会実装となります。そのため、より厳格にドローン飛行の安全性を担保するための仕組みが必要です。

しかし、今までのように安全を担保するために個々に厳格な審査を重ねていては、レベル4の飛行を中心とした多くのサービスを広く継続的に実施する阻害ともなりかねません(実際に令和元年度の許可・承認件数は平成28年度の約5倍にあたる5万件超!)。

国土交通省

国土交通省「ドローン飛行の安全性確保のための新たな制度

そこで、「機体認証」「操縦ライセンス」「運航管理の遵守事項」という航空安全三原則(機体の安全・操縦の安全・運用体制の安全)に基づいた3つの分野の制度を創設することによって、必要な安全性を担保するとともに手続きの簡素化を図ろう…ということが狙いです。

■ちなみに「機体認証」「運航管理の遵守事項」は…

「機体の安全」は国が機体の安全性を認証する「機体認証」制度で担保します。事前に国が型式ごとに設計や製造工程を審査し、適合していると認められた場合に認証書が発行されます。認証された型式のドローンは一機ごとの機体認証検査の一部を省略できる仕組みが検討されています(機体所有者を特定するための「機体登録」も創設。オンライン手続きやBluetooth等を利用したリモートIDも想定しています)。

「運用体制の安全」は「運航管理の遵守事項」を法令化等することで担保します。現状では、改正航空法でのルール化に加えて許可・承認が必要な飛行に関しては国土交通省が提出された“飛行マニュアル”を個別に審査しています。

ただ、平成29年から公開している「航空局標準マニュアル」の利用率が80%を超えているなど、実施すべき安全対策も標準化されてきている&遵守することが安全の担保上とても重要な状況があることから、法令等で明確に位置づけるとともに個別の審査は省略することを検討中しています。

操縦ライセンス制度はどのようなもの?

■操縦ライセンスの区分

「操縦ライセンス」制度は、国が試験(学科・実地)を実施し、パイロットの技能証明を行う制度です。「一等資格(第三者上空飛行に対応)」と「二等資格」に区分し、機体の種類(回転翼・固定翼等)や飛行の方法(目視外飛行・夜間飛行等)に応じて限定することを検討しています(航空機の制度がそのような仕組みになっています)。

「操縦ラインセンス」を取得していると、レベル4に相当する飛行運用をすることができたり、比較的リスクが高い飛行時にも許可・承認の手続きを省略することができることがメリットでありポイントですね。

■操縦ライセンスの具体的な利用イメージ

産業ドローンパイロットイメージ

詳細は検討中とのことですが、「操縦ライセンス」の活用イメージは下記のようなものになると思われます。

パターン1:リスクの最も高い飛行

第三者上空での飛行(レベル4など)は、①「機体認証」を受けた機体を②「操縦ラインセンス」を取得したパイロットが操縦し③国土交通大臣の許可・承認(運航管理の方法等を確認)を受けて飛行することができる。

パターン2:比較的リスクの高い飛行

これまで許可・承認を必要としていた第三者上空以外のでの飛行は、①「機体認証」を受けた機体を②「操縦ライセンス」を取得したパイロットが操縦し③「運航管理の遵守事項」に従う場合は原則、許可・承認を受けることなく飛行することができる。

もちろん、「操縦ライセンス」を持っていなくても航空法で定められたルールを超えて飛行させる場合、これまでどおり個別の許可・承認審査にて安全性が認められれば飛行は可能です。

■操縦ラインセンスの注意点

レベル4等のようなリスクの最も高い飛行を行う際には「操縦ライセンス(一等資格)」の取得が必須となっていますが、どのような飛行を"リスクの最も高い飛行"と定義するかは、詳細は検討中となっています。「催し上空の飛行」の位置づけも気になるところです。

また、現段階において機体の操作性やソフトウェアのインターフェイスはメーカーごとに異なります。「操縦ライセンス」はあくまでドローンを安全運用するための技能をリスクの高さに応じて認証したものになるので、実際に運用する機体と「操縦ラインセンス」の実地試験で操縦する機体の"差異講習"は別途必要になります。

ほか、年齢制限や有効期限、身体要件が設定されることも注意点です。ドローンスクールの講師をしていて稀に感じるのですが、年齢が比較的高い方や視力が弱い方は実技講習で苦戦することがあります(一概には言えず最終的には個人によりますが…)。このあたりは安全上仕方ない部分もありますね。※法令違反等を行なった場合にはライセンス取り消しも検討されている。他分野の免許制度同様

ドローンスクールはどうなるの?

「操縦ライセンス」制度が新設されることで既存のドローンスクールはどうなっていくのでしょうか?現在、国土交通省に登録されている「無人航空機等の操縦者に対する技能認証を実施する講習団体」だけでも900団体以上存在します。現在検討されている「操縦ラインセンス」の運用案の中には、

  • 国の指定を受けた民間試験機関による試験事務の実施が可能
  • 国の登録を受けた民間講習団体が実施する講習を修了した場合は試験の一部または全部を免除

…とありますので、「無人航空機等の操縦者に対する技能認証を実施する講習団体」のような形で、一定の講習能力を認証した民間試験機関や民間講習団体を「操縦ラインセンス」取得のためのプロセスの一部に組み込むと思われます。

ドローンスクールイメージ

ですので、ドローンパイロット育成は今後もドローンスクールがその一翼をになっていくことになりそうです。ただ、現状の民間ライセンスの位置づけ等、どのようになるかは今後の検討を見守る必要がありますね。

まとめ

新たな制度の検討は、既に仕組みが整っている航空や自動車分野や、日本と同じく新たな制度検討が進んでいるアメリカやヨーロッパの制度案を参考にしています。特に海外の制度と調和を図ることは今後国産ドローンの輸出を促進するためにもとても重要な要素となってきます。

また、2022年から新設される「操縦ライセンス」制度は、リスクに応じて必要な安全性を担保しつつ、手続きを最低限に収めることにより産業の発展を目指すものとなります。"規制"ではなく、"「ドローン前提社会」を実現する新たなドローン運用の仕組み"として「操縦ラインセンス」制度を最大限活用していきましょう!

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