日米欧が対中「技術連合」結成を構想 中国は報復準備、企業は板挟みに

 日本政府は、米国のバイデン新政権と足並みをそろえ、経済安全保障戦略の具体化を急ぐ。軍民融合の掛け声の下、国家総動員で軍備増強を急ぐ中国の脅威に対処するため、日米と欧州連合(EU)が先端技術の流出を防ぐ「技術連合」を結成する動きもある。対する中国は報復措置を着々と準備し、包囲網の切り崩しを図る。対立のはざまで日本企業が「板挟み」に陥り、サプライチェーン(部品の調達・供給網)が分断されるリスクも高まっている。(共同通信=西川廉平)

2011年8月の訪中時、歓迎式典に臨むバイデン米副大統領と習近平国家副主席(肩書はいずれも当時)

 ▽技術独裁

 「今後はあらゆる経済政策が安全保障と関連してくる」。経済産業省の幹部は、激化の一途をたどる米中の覇権争いはバイデン政権の下でも収まらず、日本は同盟国としての役割強化を求められると予想する。

 米新閣僚からは中国への厳しい発言が相次ぐ。ブリンケン国務長官は就任前の上院公聴会で、中国を「技術独裁国家」と呼んだ上で「強い立場で臨む」と明言。サリバン大統領補佐官は「人工知能(AI)や量子コンピューターなどの新興技術で誰が世界をリードするか」が競争の行方を左右すると指摘。米国が先頭を走り続けるためにも「同盟国との緊密な協力」が不可欠だと訴えた。

 自民党の新国際秩序創造戦略本部は昨年12月、経済安保戦略の策定を政府に求める提言をまとめた。米国も新たな「国家安全保障戦略」を作る予定で、経産省幹部は「党の提言を踏まえ、米国とも歩調を合わせながら戦略を形にしていく」と語る。

 議論のたたき台となるのが、米国が昨年10月に公表した「重大・新興技術国家戦略」だ。AIや半導体など20分野の技術流出を防ぐと同時に産業育成を図る内容で、同盟国との連携強化を明記した。例えば、半導体のサプライチェーンを日本や台湾などを巻き込んで再構築していくとみられる。

 ▽3極連携

 EUもトランプ前政権下で悪化した米国との関係修復に動く。昨年12月には通商や技術管理を話し合う協議体の設置を提案し、緊密な協力を呼び掛けた。日本政府関係者は「先端技術の管理はどこかの国が抜け穴になったら意味がない。自然と日本も加わり、3極で連携していくことになるだろう」との見通しを描く。

 日欧が米新政権に協調を求めるのは、トランプ前大統領の単独主義には友好国も苦しめられたためだ。

米制裁の対象となった華為技術(ファーウェイ)の広告=2020年7月、北京

 トランプ前政権は中国の華為技術(ファーウェイ)などへの輸出規制を唐突に実施。日本を含む第三国の企業にも順守を求め、半導体大手キオクシアホールディングスが株式上場延期に追い込まれるなど、ファーウェイと取引のあった日本企業も多大な影響を受けた。当時、日本政府関係者は「事前に相談くらいはあってしかるべきだ」と、米国への不満を口にしていた。

岩手県北上市のキオクシアの工場=2019年10月(同社提供)

 対中包囲網の動きは他にもある。英国は6月に開くG7サミットにオーストラリアとインド、韓国も招待する。英国は民主主義10カ国で結束する「D10」構想を提唱しており、5G通信網などについて中国製品に依存しない供給網の構築などを取り上げる可能性がある。

 ▽挙国体制

 中国はこうした動きを強く警戒する。習近平国家主席は1月25日、スイスのシンクタンク主催の会合「ダボス・アジェンダ」で「小サークルをつくり新冷戦を行えば、世界を分裂や対抗に向かわせるだけだ」とけん制した。巨大な消費市場をバックに環太平洋連携協定(TPP)参加を視野に入れるほか、EUとの投資協定実現を急ぎ、経済のデカップリング(切り離し)阻止を図る。

 中国共産党中央政策研究室の江金権主任は党機関紙への寄稿で「西側諸国の技術や部品に依存する状況から脱却する必要がある」と強調。「挙国体制」で重要技術の国産化を進め、包囲網に備えるべきだと訴える。

 中国は輸出管理法の制定やレアアースの管理強化といった対抗策も整備している。自国の利益を損なった外国企業には制裁や賠償請求を行うことができるようになり、日本企業が米国に従って中国企業との取引を止めれば、中国から報復を受ける恐れがある。

 日本と欧米間で、温度差があるのが人権を巡る問題だ。米国は少数民族ウイグル族を弾圧する中国への制裁を強化。欧州も香港問題を含めて中国批判を強めている。これに対し、日本は「人権問題に経済制裁で対処する手法には簡単には同調できない」(外務省幹部)と慎重姿勢を崩していない。

 自民党内では、欧米と足並みをそろえて中国の人権問題に厳しく対応すべきだとの声が強まっており、今後の大きな焦点となりそうだ。

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