LGやテスラも注目 コロナ感染急拡大に苦しむインドネシア ニッケルへの期待高まる

1月26日、IMF(世界通貨基金)が世界経済見通しを発表しました。原則3か月に1回の周期でIMFが発表している世界および国別の成長率見通しで、世界全体の2021年の成長率見通しは、前回予測の5.2%から5.5%へ上方修正されています。

現時点では、コロナ禍が収束する気配はなく、国別にみても、すべての国が回復しているわけではありませんが、世界全体でみれば、徐々に安定を取り戻し始めている段階といえます。

今回は、感染者拡大と景気低迷に苦しんでいるインドネシアを中心に、今の状況と今後の注目点などについて考えてみたいと思います。


コロナ感染が急拡大するインドネシア

コロナ禍におけるアジア新興国に目を移すと、中国やインドといった大国の急回復が予想されている一方で、インドネシア、フィリピン、マレーシアでは、依然、鈍い景気回復にとどまっています。

特に、直近のインドネシアでは、景気の低迷とあわせて、新型コロナウイルス感染者数が急増し、対応に追われている状況です。1月26日のインドネシア政府発表によれば、新型コロナウイルスの累計感染者数は約101.2万人と、初めて100万人超となりました。

死者数は28,468人で、感染者数、死者数ともに東南アジアの中で最多となっています。同国で最初の感染者が確認されたのが3月2日と他国に比べて遅かっただけに、急速に拡大しているといえるでしょう。

内需不振のなか景気低迷続く

2020年11月、インドネシア中銀は5会合ぶりの利下げを実施しました。実施後の政策金利は3.75%と過去最低水準になっています。その後、足元は2会合連続で金利は据え置かれていますが、直近の金利据え置きに至った理由として中銀はいくつかの点を挙げています。

そのひとつが、インフレ率の低位安定です。1月4日に発表された、2020年12月の消費者物価上昇率(CPI)は、前年同月比+1.68%でした。8月以降、5か月連続で上昇率が高まっているとはいえ、新興国としてはかなり低い水準です。

以前から、インドネシアはインフレに関して、「CPIを3±1%に抑える」との目標を定めていますが、今の水準であれば、目標の下限も下回っている状況です。通常の経済状況であれば歓迎すべき低インフレ状態ですが、今のインドネシアの低インフレ状態は需要不振によるデフレで、あまり良い状態とはいえません。消費マインド回復から物価上昇につなげることが重要とみています。

資源価格が下落

また、インドネシアの景気を冷え込ませてきたもうひとつの要因と考えられるのが、主要産業のひとつである鉱業の不振です。インドネシアはASEANのなかで有数の資源大国で、原油、天然ガス、石炭、ニッケルなどが主力産品となっています。

ここ数年は、中国を中心とした世界的な資源需要の落ち込みによって、価格も大幅に低下しています。インドネシアでは資源関連産業の従事者が多く、価格の下落がインドネシア経済、消費者のマインドなどに大きな影響を与えています。

しかし、昨年後半あたりからこの状況に少し変化の動きが出てきました。一番大きな変化が、資源爆食国である中国の景気回復の兆しが見え始めていることです。中国経済が回復基調にあるなかで、中国ならびに世界の資源需給を改善させています。インドネシアにとって明るい材料といえるでしょう。

ニッケルが救世主?

そして、もうひとつ重要なポイントが、インドネシアの主力産品のひとつであるニッケルの需要増です。インドネシアは世界最大のニッケル埋蔵量を有し、世界のニッケル生産の約30%を占めるニッケル大国です。

直近は電気自動車のバッテリーなどに使われるニッケルへの需要が急増しています。そんなおり、1月11日には、ジョコ大統領が、「今後5年間、国内のニッケル川下産業の開発に注力する」と、表明しました。

また、個別企業の動きも早く、直近は各社が、ニッケルの確保に向けて手を打ち始めています。韓国のLGエネルギーソリューションがインドネシアの現地企業とMOUを結んだほか、中国の電池最大手CATLや米国テスラ自動車などもインドネシア企業との事業提携やニッケル事業への参入の意向を示しています。

世界が脱炭素、EV推進の動きを強めている中で、当面、インドネシアのニッケルへのラブコールが続きそうです。インドネシア経済全体への現時点でのインパクトは小さいものの、新たな潮流として注目されます。

<文:市場情報部 副部長 明松真一郎>

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