離婚を切り出した妻を乗せてバイク旅行に出た男〜RIDE『The last chance saloon』より

妻に唐突に離婚を切り出された男。承諾する交換条件に、2ケツでバイク旅行に連れ出すが・・・。
オートバイ2021年3月号 第87巻 第5号 別冊付録「The last chance saloon」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部

[「オートバイ」2021年3月号は2月1日発売。 - 株式会社モーターマガジン社]

妻と家を出た3日前は青空だった。

私は42歳、妻は40歳。長男は18歳、長女は16歳の4人家族だった。
長男が大学に合格したその日に妻から離婚を切り出された。

説得する代わりに、私は 離婚するかわりに3日間だけバイクの後ろに乗って旅行につきあってもらうことにした。今日はその最終日だ。

雪がちらつく中、私はバイクを走らせた。
気温は0度に近かっただろう。走るバイクの風圧は増して、体感温度はさらに低い。
ねェ・・・バカみたいじゃない?と妻は後ろでボヤいた。「ほかにバイクなんか走ってないじゃない」

「今日一日で最後だ、文句をいうな」
私の後ろにいるお前の風除けになっているのは私じゃないか、と思わないでもなかったが、それは口には出さなかった。いや、出せなかった。

思えば、これまで私は、妻と子供たちを世間の風雨から守ってやっているのは自分だ、そんなふうに考えていたのかもしれない。
私にとっては、それは家長としての自覚だったが、守っているはずの妻や子供たちからすれば、それは大いなる誤解であって、傲慢としか映っていなかったのかもしれなかった。
バイク乗りなら当たり前に感じる 真冬の凍えるような寒さは、後ろに乗る者にとっては耐え難い拷問だろう。あらかじめ覚悟がある乗り手ならいい、乗せられている相手にそれにただ耐えることを強いるのはやはり傲慢なのだろうと、私にも悟るところがあったのだ。

妻と過ごす時間は今日が最後かもしれない。
出かける前は、離婚を切り出した妻に対して少なからず怒りはあったし、何も息子の大学合格という晴れの日に言い出さなくてもいいだろうという困惑があったが、いまはただ、彼女に無理をさせていたのが私自身の不明にあったのだろう、という思いがただただ胸をついていた。

妻と過ごす時間は今日が最後かもしれない。
スロットルを握る右手が痺れているのは、何も寒さだけのためではなかったかもしれない。

男と女の物語の続きは、本誌でどうぞ

[オートバイ 2021年3月号]

楠 雅彦|Masahiko Kusunoki

車と女性と映画が好きなフリーランサー。

Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。

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