春一番の季節を

 きのうは、その家ごとに願いを込めて「鬼は外、福は内」の声が聞かれたことだろう。春を呼び込む節分が明けて、きょうは立春。今から春分の日(3月20日)までの間に、初めて吹く強風を春一番という。北風ではなく、肌に南風を感じる頃も近い▲気象用語に使われる「春一番」は、もともと壱岐の言葉らしい。江戸末期の早春、五島沖に出漁した壱岐の漁船7隻が猛烈な突風を受けて沈み、53人が遭難した。それから「春一」「春一番」と呼んで恐れたという▲勢いよく季節の扉を開くような響きのある春一番だが、自然の怖さを忘れないようにと、古人の戒めが込められている。日脚が伸び、木の芽が次第に膨らむこの時季は、油断ならない、用心の時でもあるらしい▲コロナ禍で緊急事態宣言が出された11都府県のうち、栃木県を除いて宣言の延長が決まったが、言うまでもなく対岸の火事ではない。私たちも気が抜けない日々が続く▲県が長崎市に独自の緊急事態宣言を出し、佐世保市が医療緊急事態宣言を発令して2週間余りたつ。感染者数は減少しつつあるとしても、医療の現場は緊張が解けない。経営的に追い込まれている店舗や企業も多い▲「減少傾向」に気を緩めるどころか、今ほど気を引き締めるべき時はあるまい。春一番の季節を皆でしのぎたい。(徹)


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