ミャンマー、SNSで広がる“静かな”抵抗 「クーデター」という言葉が国内で使われない理由

2月1日、ミャンマーの首都ネピドーで、議会近くの道路を封鎖する軍用車両と国軍兵士、警察のトラック(ゲッティ=共同)

 2月1日、ミャンマー国軍は昨年11月の総選挙で不正があったとして、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相とウィン・ミン大統領を拘束した。日本を含む各国のマスコミは一様に「ミャンマーでクーデターが起きた」と報じ、世界中から批判が相次いでいる。

 しかし、ミャンマー人の友人によると「これはクーデターではない」という。確かに、現地ではニュースを含めて「クーデター」という言葉が飛び交うことはない。国軍自体が、国民民主連盟(NLD)幹部の拘束はあくまで不正選挙をただすための憲法にのっとった措置であると主張し、「クーデター」という言葉を使っていないこともある。国際社会とここまで落差が発生しているのはなぜか。ミャンマーで今、何が起きているのかをリポートする。(ミャンマー在住ジャーナリスト、共同通信特約=板坂真季)

ミャンマーのアウン・サン・スー・チー氏(2019年4月撮影)

 ▽デモでなくても示せる抵抗の意思

 1日以降、ミャンマー国内では会員制交流サイト(SNS)を通じて、今回の件についてある考え方が急速に広がっている。

 それは、「『クーデター』として表だって非難すれば逆に『クーデターで軍が作った新たな政権』を認めてしまうことになる。無視し続ければ、NLD政権が継続しているとみなせる」という考え方だ。そこには「国際社会からの圧力でスーチー氏を元の地位に戻す道を探ろう」と続く。

 すでに助けを求める英語の定型文が出回っており、多くの人たちが国連関係者などのSNSへこの文章を送っている。表だった抵抗の動きはみえにくいものの、ミャンマーの人々はSNSを武器に“戦っている”と言えるだろう。

スマホには赤いプロフィルが並ぶ=2月2日

 SNS上では、他にも多くの動きが発生している。

 一つは、スマホのプロフィル画像を赤い画像に変えようというもの。赤はNLDのイメージカラーである。2020年11月に実施された総選挙では、新型コロナウイルス感染拡大で集会ができず、NLD支持者は、プロフィル画像をNLDの党旗に変える運動が起きた。これに想を得た動きだろう。

 2月1日朝の時点では、悲しみを示そうと、人々は連鎖的に黒に変更していた。しかし、「負けてはならない、強さを意味する赤にしよう」との呼び掛けが起こり、2日午後には多くの人が赤い画像に変えた。ただ、赤くしていると拘束されるとのうわさが出回り、3日朝にはプロフィル画像を次々と元に戻し始めた。

 ほかにも「平和抗議の10カ条」と題した文章も瞬く間に多くの人にシェアされている。家にとどまったままSNS上でできる10の提言を羅列した文章で、「嫌なことは嫌と書こう」「怖くて書けないなら賛同できる投稿をシェアしよう」「嫌なことを書きにくる人はブロックしよう」といった趣旨の項目が10個続く。10カ条のどこにも政治的な単語が入っていないのが肝だ。

客が殺到して入場制限を行うスーパー=2月1日

 ▽ネット遮断されず、抵抗どう進む?

 こうした動きはすべてSNSで拡散している。インターネットが普及していなかった07年のミャンマー民主化運動「サフラン革命」の時代にはなかった動きだ。2日午後8時には、一斉に鍋をたたいたりクラクションを鳴らしたりして5分間騒音を出そうという呼び掛けに多くの市民が応じた。ミャンマーに伝わる悪魔を追い払うまじないだ。国営病院の医療関係者が出勤を見合わせる動きも広がりつつある。抵抗が「静か」とは言えない状況に向かう兆候だろうか。

 当初、1日午後にネットが遮断されると言われていたが、3日現在もつながっている。止めてしまうには経済への影響が大きすぎるからか、「これはクーデターではない」という国際社会へのアピールか、それともガス抜きになるとみなしたのか。ミャンマーの人々によるSNSでの“静かなる抵抗”はどう進むのか。ネットは、世界とつながり続けているだろうか。

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