<社説>サンゴ訴訟請求棄却 地方の裁量制約する判決

 地方自治体の自主性を訴えた県の主張は退けられた。 名護市辺野古の新基地建設に向けた大浦湾のサンゴ類移植を巡り、沖縄防衛局の特別採捕申請を許可するよう農林水産相が是正を指示したのは違法として、県が指示取り消しを求めた訴訟で、福岡高裁那覇支部は3日、請求を棄却した。

 判決は「県が許可しないのは違法状態だったので、許可するよう求める必要があった」などとし、許可を命じる農相の指示を適法と判断した。そして県が申請を許可しないのは「裁量権の逸脱・乱用に当たる」と判断した。

 県の意思を尊重せず、新基地建設という国策を強行する国の主張に沿った判決である。地方自治体の裁量を制約し、地方自治の理念を揺るがしかねない。

 判決は、辺野古新基地建設を巡り、仲井真弘多元知事が埋め立て承認したことを前提にしている。

 専門家が指摘するように、軟弱地盤の存在が判明したため、当時認められた設計の概要の根拠は崩れている。公有水面埋立法上、軟弱地盤がある大浦湾側も含めて国は埋め立て工事を進めることができないはずだ。

 防衛局は2019年、県にサンゴ類計約4万群体の移植許可を申請した。県は、埋め立て予定地で見つかった軟弱地盤の改良に向け、大規模な設計の変更が予定されていることなどを理由に判断を保留した。

 これに対して農相は、防衛局の申請通りに移植を許可するよう県に是正を指示した。県は農相の指示が違法だとして国の第三者機関「国地方係争処理委員会」に審査を申し出たが退けられたため、提訴に踏み切った。

 農相の指示について、県側は「地方自治体への国の関与は最小限であるべきという、地方自治の原則に合致しない乱用的なもの」と主張する。移植申請の処分を保留していたことについては「埋め立て工事は大幅に変更される見込みで内容も確定していないため、申請が妥当か判断できる状況ではなく、審査が必要」として正当性を訴えた。

 一方、国側は許可しない県の対応を「著しく適正を欠き、行政の事務遂行として不公正」と反論した。

 今回の判決について玉城デニー知事は「地方公共団体の自主性と自立性を著しく制約し、大きな問題がある」と批判した。地方分権改革によって、国と地方自治体は対等の関係と位置付けられているからだ。

 県は現在、軟弱地盤の改良工事を追加するため沖縄防衛局が提出した設計変更申請を審査している。今回の判決が、県の審査に影響を及ぼすようなことがあってはならない。

 新基地を巡る裁判は9度目だ。県が訴訟を繰り返す背景に新基地建設に反対する県民の民意がある。国はその民意に真摯(しんし)に向き合うべきだ。

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