環境負荷少ない農業へ 社会起業家・石川美里さん=新富 「腸活ミニ野菜」好評

収穫した野菜プチヴェールを手にする石川美里さん(右)

 社員一人一人が一起業家として事業を立ち上げ、社会問題の解決を目指すボーダレス・ジャパン(東京、田口一成社長)。新しいビジネスの形として注目を集める中、同社から巣立った女性が新富町で農業ベンチャーに挑んでいる。農業生産法人「みらい畑」の石川美里さん(30)。昨夏スタートしたネット販売が好評で、3年越しで黒字を達成した。

 ボーダレス・ジャパンは、「ソーシャルビジネスで世界を変える」を理念に2007年に設立。さまざまな国籍の人が暮らすシェアハウスの開業や、ミャンマーの農村再生を目指したハーブ栽培など、国内外で多彩な事業を展開している。

 ユニークなのは、各自が社会課題の解決策を発案し、その事業の経営者となること。利益剰余金を「共通の財布」に入れ、新事業への出資金に回すことでチャレンジしやすくしているのも特徴だ。

 石川さんは2014年にボーダレス・ジャパンに入社。3年後、縁あって新富町に移住し、「みらい畑」を立ち上げた。当初は耕作放棄地での有機栽培を通して高齢者雇用を創出することを目指していたが、農業経験ゼロからのスタートは失敗の連続。天気に虫に…とコントロールできない要素に悩まされ、1千万円超の資金は瞬く間に底をついた。

 町内の生産者や田口社長らの助言を受けながら計画を練り直し、行き着いたのが「腸活のための”ぬか漬け専用”ミニ野菜」だ。初のBtoC(企業と消費者との直接取引)として、昨年6月に通販を始めたところ都市部の女性を中心に反応は上々。コロナ禍で「腸活」が注目されていたこともあり、高い免疫力を打ち出したタイムリーな企画は見事に当たった。

 月1回定期便の購入者は現在、約800人に。当初1500平方メートルだった畑は1万平方メートルに拡大。社員は、社長1人から7人(アルバイトを含む)に増えた。赤字続きだった経営に光が見えてきたことに、石川さんは「商品力を高めれば売れることが分かった」と手応えを実感する。

 一方で、「環境的なインパクトはまだまだ小さい」と、環境負荷の少ない農業にリデザインするという新たな目標を見据える。農地に支柱を立て上部に太陽光発電を設置し、農業と発電を同時に行う「ソーラーシェアリング」も実現に向け試験中だ。

 視線の先には社会起業家として一つでも多くの課題を解決したいという思いがある。「未来に恥じない地域環境を残す集団を目指し、全国へ事業を拡大していきたい」。ボーダレスから本県にまかれた種が大きく育つ日はそう遠くないかもしれない。

「社会のために」追求

 石川美里さんは兵庫県出身。社会課題を解決したい、という思いが芽生えたのは父親の仕事の関係で小学3年から3年間、インドに滞在したとき。「生まれた国が違うだけで人生の難易度が変わるのはおかしい」。人生の不条理に対する思いは、その後の東日本大震災でさらに強まった。「人は誰しも死ぬ。であれば、生きている間は何か役に立つことをしたい」

 物質的な豊かさより精神的な豊かさを求め、社会貢献への関心が高いとされるミレニアル世代。だが、3歳上の姉は全く違う道を歩んでいると言い、「私は社会のために何かしたいという欲が人より強いだけ。そういう星の下に生まれたんだと思う」と自然体だ。

【写真説明】収穫した野菜プチヴェールを手にする石川美里さん(右)

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