廃棄物収集作業員の苦悩 感染「いつ、どこで」 マスク着用、消毒徹底も…

感染防止対策を徹底しながら市民生活を支える作業員(本文とは関係ありません)

 年末の忙しさが一段落した昨年の大みそかの午後。長崎県内の廃棄物収集の作業員、聡(仮名、40代)は仕事を終え、パッカー車を洗っていた。「寒いな」。体が冷えたせいか、翌日の元旦に37度台の熱が出た。風邪だと思った。
 いったん熱が下がり、1月4日から普段通り出勤。大雪の影響で7日に同僚が自宅に泊まった。「寒気がする」と同僚が不調を訴えたため、部屋を準備し接触を避けた。この日から聡は鼻が詰まり始めた。
 聡が味覚に異変を感じたのは10日。昼食で食パンにマーガリンを付けて食べたが味がしなかった。マーガリンの量が足りないのかなと思った。夕食で食卓に出たピーマンの肉詰めも薄味に感じた。「コロナかもしれない」。聡の胸に一抹の不安がよぎった。
 その日の夜、宿泊した同僚から電話があった。「陽性でした」。申し訳なさそうな口調だった。家族全員で検査を受け、聡だけ陽性反応が出た。後日、職場の同じグループの同僚2人の感染も判明。社内の感染者は計4人となった。
 コロナ禍にあっても、生活維持に欠かせない「エッセンシャルワーカー」として業務の継続が求められる廃棄物処理業。仮に業者内で感染が広がれば、市民生活に影響が及ぶ可能性がある。「仕事に穴はあけられない」。聡はそう考え、できるだけ外出を控え、仕事中はマスクを着用し、消毒を徹底してきた。それなのに-。
 「いつ、どこで感染したのだろう」。そんな疑問が頭を駆け巡った。

「ごみ捨てのマナーを守ってほしい」と聡は訴える(本文とは関係ありません)

◆感染リスクと隣り合わせ

 新型コロナウイルスに感染した県内の廃棄物処理業者で働く聡(仮名、40代)は、症状が軽く、宿泊療養施設に入所した。
 以前は、少々体調が悪くても出勤していた。「市民に迷惑を掛けられない」。エッセンシャルワーカーとしての矜持(きょうじ)だった。「なるべく早く復帰します」。そう連絡すると、同僚から温かい言葉が返ってきて救われた気持ちになった。「戻ってきたら、また一緒に仕事をしましょう」
 4人の作業員が感染した同社。感染経路は分かっていない。同社は日々の検温やマスク着用、手洗いうがいの励行、複数人が乗るパッカー車の常時換気、さらに、社員全員にアルコールボトルを配布し、外出の自粛を要請するなど対策を徹底していた。それでも感染を防げなかった。
 同社の社長によると、作業員の中には、県内でクラスター(感染者集団)が発生した施設にごみ回収に行くこともある。「感染リスクと隣り合わせであることは分かっているが、事業を継続しないと市民生活を支えられない難しさも感じている」と話す。
 県内を感染「第1波」が襲った昨年5月ごろ、作業員に宛てた感謝の手紙がよく届いていたが、今ではぱったり無くなった。会社で感染者が出たことによる直接的な誹謗(ひぼう)中傷はないが、濃厚接触者でもない社員の家族が2週間出勤停止になったケースがあった。
 「感謝の手紙が少なくなったのは市民にとって、それが『当たり前』に戻ったから」と関係者は語る。
 社長は「引き続き、感染対策を実施しながら事業継続に努めたい。県民の方々には、使用済みマスクやティッシュなどを入れたごみ袋はきちんと縛って捨ててほしい」と話した。

◆「ごみ捨て マナー守って」

 聡は、約1週間の宿泊療養施設生活を終え、1月19日に自宅に帰った。「お帰り」「好きなテレビ番組録画しとるよ」。家族の言葉が身に染みたが、あえてこう言った。「まだ自分に近づかんほうがよかよ」。シャワーを浴び、すぐに自室にこもった。
 帰宅して数日間は、念のため家族とは接触せず、LINE(ライン)でやりとりした。「ご飯食べてください。食べ終わったら、外に出しといてください」。食事のたびに家族から送られてくるメッセージ。寂しかったが、これぐらいしないと家庭内感染は回避できない-そう考えた。
 1月下旬、聡は仕事に戻った。新型コロナに限らず、普段から感染症予防などに注意しながら、仕事をする収集作業員たち。中身が分からない袋や、口を縛らずに捨ててある袋を扱う際には思わず身構える。
 「ごみ捨ての最低限のマナーは守ってほしい」。聡はそう訴える。
 感染した同社の作業員4人は全員治療を終え職場に復帰。同社は2月2日、「終息宣言」を出した。

ごみ収集作業員に宛てた感謝の手紙は、今は少なくなった(本文とは関係ありません。写真は一部加工しています)

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