コンビニは神への〝冒瀆〟か?  ヨーロッパの知られざる買い物事情【世界から】

 コンビニエンスストアが、もしなかったとしたらあなたの生活はどう変わるだろうか?ぜんぜん変わらないよ、という人もいるだろう。別の店に行けばいいだけのこと、と気にしない人もいるに違いない。しかし、ないとなるとやはり困る、という意見が多いのではないか。

 ヨーロッパ諸国には、コンビニがない。筆者が住むオランダにも存在しない。しかし、はっきりと「ありません」と書くと「コンビニに相当する店ならありますよ!」と反論される可能性があるので正解に書く。日本とほぼ100%同様のコンビニは、ヨーロッパには存在しませんよ、ということである。(オランダ在住ジャーナリスト、共同通信特約=稲葉かおる)

 ▽ない生活が当たり前?

 取材のため南ポルトガルに行ったときのことである。海辺のリゾート地がひしめくアルガルヴェ(Algarve)と呼ばれる地域は「ヨーロッパのカリフォルニア」の異名を持ち、温暖な気候のため一年中を通じ観光客でにぎわう一帯だ。

 私がこの南ポルトガルの玄関口、ファーロ(Faro)空港に到着したのは午後11時過ぎだった。車で30分ほどで宿泊先に到着したが、小腹が減っていたので何か買って食べようと思い、外に出た。

 まだ午前0時も回っていないし、リゾート地なのだから、めぼしい店は当然のことながらオープンしているはずである。ところが、行けども行けども酒場以外はどこも閉まっている。スーパーマーケットはあるか?と酒場で呼び込みをしていた人に聞いたが、首を横に振った。聞けば、だいたいどこも、朝8時半くらいまで待たないとオープンしないという。ヨーロッパ大陸最南端で、冬でも常夏気分が味わえるリゾート地!とうたう地域らしからぬ事態に驚き、おかげで空腹のまま一夜を明かすはめになった。

ポルトガルのガソリンスタンド脇にある、コンビニというよりもキオスク的な店。生鮮食料品や救急用品、観光客用に郷土の土産物なども扱っている(画像提供:P.today.com)

 次の日、取材先で夜遅くまでオープンしている店をやっと見つけた。日本で言うならガソリンスタンドに併設されたキオスクといったところだ。ただし、夜遅くといっても午後10時ごろまでしかオープンしておらず、客が少なければさっさと従業員も店を閉め帰宅してしまうという具合である。

 ならば、観光客が宿泊するホテルやキャンプ場周辺にあるスーパーマーケットならきっと午前0時ごろまで開いているはず、と探してみたが、やはり閉店はそろって午後10時だという。夜も更けてきたころ、ちょっとコンビニに行ってくるか、という手軽さはポルトガルには残念ながらないのだ。

 ▽角のたばこ屋さん

 ギリシャは、西欧人や北欧人に非常に人気があるバカンス(夏休暇)目的地である。灼熱(しゃくねつ)の太陽と開放的な海辺を求め、毎年6月になると民族大移動のようにリゾート客たちがギリシャ本土や、クレタ島やレスボス島などの諸島へ繰り出す。筆者もその例にもれず、出発直前キャンセル待ちで格安販売される旅行クーポンが手に入ると、ギリシャに行って夏のひと時を過ごしたものだ。

 ギリシャでは若い親日家が増えているようで、日本にホームステイに行ったとか、「日本のコンビニと同じものがここにもあるんですよ!知ってますか?」と自慢する日本通のギリシャ人にも出会ったことがある。

 日本のコンビニと同じもの?そんな便利なものがギリシャに出来たのか?と半信半疑で彼らの話を聞きつつ、案内され行ってみたのはペリプテロと呼ばれる、かなり小規模な店だった。各都市はもちろん、観光客が来る場所であれば必ず存在する店で、ひと昔前の日本でいえば「角のたばこ屋さん」といった感じだ。朝7時ごろから、夜は0時ごろまで営業しているため、便利といえば便利ではある。

ギリシアのぺリプテロに並ぶ商品。観光客用に各国の主要新聞や雑誌が並べてある店も多い(画像提供:Sunwe)

 ただし、販売されているのはごくありきたりなものばかりで、生鮮食料品、たばこ、新聞、雑誌、バスの切符(回数券)など。私も何回となく利用したが、日本通のギリシャの方々には非常に申し訳ないのだが、用途こそ同じであれ、日本のコンビニとペリプテロはやはり別形態の店と言わねばなるまい。

 ▽ファミマよりドンキ?

 前述した、南ポルトガルのアルガルヴェ州は、南スペインと国境を接している。国が変われば、コンビニ事情も多少、違ってくるかもしれない。そんな期待を抱きつつ、道路標示がポルトガル語からスペイン語に切り替わるのを横目で見ながら国境を越える。

 南スペインも年中温暖な気候のため、海辺のリゾート地は観光客で一年中にぎわっている。この周辺は特に、定年後にこの地で余生を送るという北欧からの移住者が多い。彼らに加え、地元の人たちをも抱える地域であるからして、生活必需品を販売する店は必要不可欠だ。事実、日本のコンビニと少し比較できうる店を、ようやくここで見つけることができた。

 オプンコール(Opencor)という名のスーパーマーケットがそれだ。このスーパーは、都市であればほぼ必ず存在するし、朝8時から午前2時まで一年中オープンしており、その点ではコンビニに類似した店といえる。

 雰囲気は、例えるなら「ファミリーマート」というより、品ぞろえの多さから「ドン・キホーテ」と呼んだ方がぴったりくるように思う。生鮮食料品から日常必需品までほぼ網羅しており、何から何まで一応そろうので重宝だが、日本のコンビニで扱っているような総菜に相当するものはほぼ置いていない。あってもピザか、スパゲティ程度である。もちろん宅配便サービスもなければ、有名企業とのコラボ商品、スイーツのキャンペーンなどはまったく期待できない。

スーパー大手・オプンコール(Opencor)。海辺を訪れる観光客にとっては、アイスクリームから水着まで売っているのでとても重宝だそうだ。

 ▽ない理由とは?

 ならばなぜ、日本のそれに匹敵するコンビニがヨーロッパ諸国には存在しないのだろう?

 私が質問すると、「それには、宗教的な理由があるからだよ、きっと!」と現地の人たちは口をそろえてそう答える。スペインやポルトガルなどカトリックが国教の国々では、日曜日が安息日と決められている。つまり、神によって定められた休日なのだ。六日間、一生懸命働いたら、七日目である日曜日はきっちり休むのが当たり前。全能の神様からいただく休みはありがたく思って、ゆっくりしなさいよ、ということなのだ。したがって、安息日に店をオープンして働き、お金を稼ぐなどということは神に対する冒瀆(ぼうとく)だと考えるのだそうだ。

 それでは、オープン時間に関してはどうなのだろう?一晩中オープンしていたりすると、やはり神様から罰が下るのだろうか。この疑問に対しては、「(深夜まで働くためには)人手が足りないからだろう」とか「そこまでして金もうけをしなくていいから」とか「深夜は客も寝ているからじゃない?」とあくまでも曖昧な返答が多かった。

 また、日本とヨーロッパの家庭料理の違いも関係してくるのではないだろうか?ヨーロッパの食卓には、調理も比較的簡単なメニューが多く上る。朝食には、パンとチーズ、飲み物はコーヒーか紅茶、ちょっと贅沢をしてヨーグルトでおしまいだ。夕食となればスープや煮込みなど手軽に作れるものばかりである。日本の総菜のように栄養面や味に考慮がなされ、きめ細やかに調理されるメニューも少ない。詳しいレシピに載っている食材から調味料まで一通りそろえる、などということがあまりないので、何か足りなくてもあり合わせで簡単に食事ができてしまう。そのため、「あっ、●●を忘れた!」とコンビニに走る必要がないというわけだ。

 これはあくまでも持論だが、ヨーロッパの人たちの「どうにかなるさ」の精神にも一因があるような気がする。何か買い忘れてもあくせくせず、店が開いているときに買いに行けばいいや、と気楽に考える人が多い。これをズボラと考える人もいるだろう。しかし、ストレスを感じずゆったりと過ごすために、いい意味での怠惰さも、彼らにはきっと必要なのだと思う。

 日本に帰国するたび、筆者は時間が許す限りコンビニへ行くことにしている。何から何までそろっている重宝さは、何事にも代えがたい。ドアを開けたとたん、まるで夢を見ているような気分になれる、この便利さ。日本が世界に誇るべきものの代表、まさにそれが、コンビニである。

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