笑い要素ゼロの『パラサイト』!? な注目作『食われる家族』や母子愛憎法廷劇『潔白』ほか“未体験ゾーン”の韓国映画を爆選!!

『食われる家族』© 2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & B.A. ENTERTAINMENT. All Rights Reserved.

爆選!「未体験ゾーンの映画たち2021」

諸事情によって日本公開されることのない隠れた傑作・怪作映画の数々がスクリーンで楽しめる劇場発信型映画祭「未体験ゾーンの映画たち」が、激動続く2021年も予定通り開催! しかも例年より韓国映画が豊富!? ということで、映画ファンであれば絶対に押さえておきたい注目作を一挙にご紹介。やはり韓国は大手配給以外の作品もスゴかった!!

「未体験ゾーンの映画たち 2021」

喜劇要素ゼロの『パラサイト』!? なミステリー×スリラー『食われる家族』

『食われる家族』は、読書家であれば一度は参考にしたことがあるだろう<本屋大賞>の2020年度翻訳小説部門1位を獲得し、世界12カ国で出版された「アーモンド」の著者、ソン・ウォンピョンの商業映画監督デビュー作。

KAFA(韓国映画アカデミー)出身にして初の長編小説でベストセラー作家となった逸材だけに、ウォンピョンの実力やいかに? といった重圧もあっただろう。コロナ禍にもかかわらず本国で大ヒットを記録したというから、その期待値の高さが窺えるというものだ。

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そんな本作の主人公ソジンを演じのは、『悪人伝』(2019年)でヤクザの最強組長マ・ドンソクと共闘する暴力刑事を演じたキム・ムヨル。ソジンと相対する謎の女は、『無双の鉄拳』(2018年)でマ・ドンソクの妻を演じていたソン・ジヒョという、ビタイチ関係ないのにマブリーの顔がチラついてしまう厄介なキャスティングだ。

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冗談はさておき、『食われる家族』という不穏なタイトルとぎこちない“家族の肖像”的なメインビジュアルには、喜劇要素を排除した『パラサイト 半地下の家族』(2019年)とでも例えたくなる雰囲気が漂っている。実際、ソジンは幼い頃に妹が失踪し、妻をひき逃げ事件で亡くすという不幸のコンボをくらった男。実家は裕福だが喪失から立ち直れていない悲しみが充満していて、そんなときに突然「妹のユジンが見つかった」という報せが寄せられたものだから、さあ大変。

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数十年ぶりに再会したユジンは聖母のような微笑みが武器の女性で、ソジンですらギクシャクしている家族にもソッコーで馴染んでしまう。絶妙に気の利いたムーブで幼い姪っ子の信頼もゲットするが、ソジンだけはどうにも違和感を拭えない。機能不全に陥りかけていた家族を救ってくれるかもしれない理想的な妹のはずなのに……。本作はそんな「なぜ?」の部分を引っ張ることはせず、序盤から「ユジンは怪しい」という感覚を共有し、その“真の目的”をどう見せていくのか、という部分を軸に展開していく。

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目の前で家族が亡くなるなど、“喪失”から物語が始まるのは「アーモンド」と共通するものの、克服するのではなくどんどん沼にハマっていき、しかしそれゆえにユジンの違和感に気づくことができるソジンの存在はあまりにも救いがなくて、主人公としてはかなり悲劇的。キム・ムヨルのぬぼーっとした佇まいと発狂にまでは至らない爆発力が頼りなく、目の動きひとつで見るものを不安にさせるソン・ジヒョの凄まじい表現力にとことん翻弄される、という構図はなかなか見ごたえあり。

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どこか野沢尚脚本の90年代連続ドラマ作品のような趣もあって意外と見やすいので、今後の作品にも期待したいところだ。

容疑者となった母を救え! ド田舎で起こった大量殺人事件の真相は!?『潔白』

ド田舎で起こった農薬混入マッコリ殺人事件の容疑者として逮捕された母を救うべく、優秀な弁護士である娘のアン・ジョンインが久しぶりに故郷に戻り、事件の真相を追求していくサスペンス・ミステリー『潔白』。これまで「秘密の森」(2017年)などドラマを主戦場としてきたシン・ヘソンの映画初主演作であり、新型コロナウイルスの影響で二度の公開延期という憂き目に遭いながらも大ヒットを記録したという、超・注目作だ。

『潔白』

警察の拷問殺人隠蔽を暴け! 権力に抗い民主化を勝ち取った韓国に学ぶ『1987、ある闘いの真実』

貧困、大学進学を許さないDV親父、守ってくれない気弱な母、自閉症を抱える弟ジョンスン……この家にいるかぎり未来はないと家出した若きジョンインは数年後、やり手の弁護士として大都会で活躍していた。そんなとき、テレビのニュースで母親が大量殺人の容疑で逮捕されたことを知る。しかも認知症を発症しているらしい母は、ずさんな捜査と暴力的な取り調べによって強引に自供させられていたことが判明。「事件が全く起こらない」と表彰されるほど長閑な村で、一体何が起こったのか? 誰が母を犯人に仕立て上げたのか? 事件から生き残ったチュ市長が推し進めるカジノ誘致との関係は……?

『潔白』

『哭声/コクソン』(2016年)などの影響で、粗末な造りの民家のビジュアルだけでうっすら恐怖を覚える韓国映画ファンは少なくないだろう。本作にも見事なボロ家が事件現場として登場し、地方出身者のノスタルジーを惹起しつつ、都会者の恐怖を煽る。そしてジョンインの捜査を妨げるのは、検察らチュ市長一派だけでなく、旧態依然とした田舎あるあるの数々。そんな中でも巡査として働く同級生のヤンだけは協力的で、凶悪事件を共に追いつつもコメディリリーフとして箸休め的に活躍する。

『潔白』

ジョンインの崇高な倫理観を堅持するキャラクター像は清廉すぎるきらいもあるが、母を弁護しながら、たった一人で巨悪と対峙する主人公には不可欠な要素だったのだろう。シン・ヘソンは身長170cm超のキリリとした存在感をいかんなく発揮し、長い首が際立つ部屋着シーンの美しさはハッと息を呑むレベル。絶体絶命の窮地で顔を引きつらせながらもドドン! と見得を切るシーンは思わず握り拳のアツさだ。

『潔白』

チョン・ウソン主演!殺人事件の目撃者は自閉症の少女⁉ 思いやりに満ちた感動の法廷ドラマ『無垢なる証人』

また、チュ市長を演じる名バイプレイヤー、ホ・ジュノの劇画マンガのような下卑た悪人ヅラは、ここ数年の韓国映画でもトップクラス。高齢の母ファジャを演じる名女優ペ・ジョンオクの鬼気迫る演技もため息もので、娘の顔すら忘れてしまった悲哀と時折のぞかせる愛情を文字通り体当たりで表現している。

『潔白』

2010年以降にも農薬による殺人事件が何件か起こっている韓国では、映画化不可避の題材だったのかもしれない。しかし本作は、目の肥えた映画ファンが「ミステリーとしてはちょっとベタかな~」なんて思い始めるであろうタイミングで予想を裏切る驚愕の事実が待ち構えていて、そのまま涙腺を毟り取るかのような号泣展開へ突入する。狭小コミュニティの醜い内ゲバと朧気な家族の絆をスリリングかつ感動的に描いてみせた、ぜひ劇場で観ていただきたい快作だ。

世界規模の全年齢対応本格3Dアニメ! 今日的な教訓を提起する『白雪姫の赤い靴と7人のこびと』

国内外で歴史的ヒットを記録している『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』(2020年)に始まり、中国製アニメ『羅小黒戦記』(2019年)など東アジア全体でアニメ作品が盛り上がっているが、映画大国・韓国はどうだろうか。このたび日本上陸を果たした韓国アニメ、その名も『白雪姫の赤い靴と7人のこびと』は、こともあろうにグリム童話から「白雪姫」をチョイスするという、古豪ディ●ニーへの宣戦布告アニメだ!?

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黒髪ながら人種のはっきりしない白雪姫と緑色の肌を持つドワーフたち(※原題は『Red Shoes And The Seven Dwarfs』)は、ひと目見ただけでは「これ韓国映画なの?」と穿ってしまうバタくさめ(失礼)のビジュアル。それもそのはず、キャラクターデザインは『アナと雪の女王2』(2019年)などを手掛けたキム・サンジンで、韓国アニメ『ワンダフルデイズ』などに携わったホン・ソンホ監督が演出面を担ったという。さらに英語版の吹替にはクロエ・グレース・モレッツ(あのハスキーボイスは声優としてもかなり魅力的)やサム・クラフリン、ジーナ・ガーションなどビッグネームが参加しているということで、そもそもがワールドワイド志向のアニメなのだ。

そんな本作の主人公は、ひょんなことから「履けばスレンダーボディに変身する」という魔法の赤い靴をゲットした、少々ぽっちゃり気味な白雪姫。7人の“こびと”たちは彼女の美しさに目を奪われるが、実は彼らも魔女の呪いによって姿を変えられてしまった元イケメン王子たちだった。そして白雪姫は失踪した父親を探しに、こびとたちは呪いを解く=世界で最も美しい娘(姫)にキスをしたもらうため、共に険しい冒険へと出発するが……。という、2021年の感覚だと「おいちょっと待て」とツッコミたくなるであろうビミョーなあらすじ。これでは、他人に対して「太った?」「肌荒れてない?」「髪薄くなった?」などと平気で言いくさる、いわゆる“ボディシェイミング”行為を助長しかねない。

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本作が真に標榜しているのは「人は見た目(体型、肌の色など)や才能の有無にとらわれるべきではない」というメッセージのはずだ。良くも悪くも美意識の高いことで知られる韓国、しかも設定が設定だけに観ていて「これ大丈夫か?」と不安になってくるのだが、最後まで観れば、非常に感動的で教訓に富んだ普遍的な成長物語になっていることがわかる。むしろリスクを冒してでも共通性の高いテーマを選んだのだと考えると、製作陣のチャレンジ精神と志の高さが窺えるのではないだろうか。すべての優れた作品と同じく、観ているうちに様々な要素が愛おしくなってくる、そんな抗えない魅力を持っているのも事実だ。

予算の関係か背景などの作り込みが甘い部分はあるし、ディズニープリンセス的なベタ演出も苦笑ものではあるが、童話・昔話キャラ大集合的なこびとたちの個性豊かな特殊スキル描写も小気味よく、中盤のバトルシーンなどはかなり楽しく見応えあり。ディズニー/ピクサー、ドリームワークス、イルミネーションのアニメが好きならば、また韓国アニメの実力を確認する意味でも、ぜひチェックしておきたい作品だ。本国では二次創作も盛り上がっているようなので、個別キャラ萌え目線でも楽しめるだろう。

なお東京での上映は終了しているが、韓国でたびたび映画の題材となる“悪魔祓い”モノの『メタモルフォーゼ/変身』は、いわば韓国版『エクソシスト』(1973年)的オカルト・ホラー。『哭声/コクソン』よりも強烈な“儀式”描写がガチ怖なので、「未体験ゾーンの映画たち2021」大阪の上映スケジュール決定を待とう。

『食われる家族』はヒューマントラストシネマ渋谷で2021年2月5日(金)~2月11日(木)上映、シネ・リーブル梅田は上映日未定

『潔白』はヒューマントラストシネマ渋谷で2021年2月19日(金)~2月25日(木)上映、シネ・リーブル梅田は上映日未定

『白雪姫の赤い靴と7人のこびと』はヒューマントラストシネマ渋谷で2021年3月19日(金)~3月25日(木)上映、シネ・リーブル梅田は上映日未定

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