老後の資産形成で手を出してはいけないものとは?

皆さんにとって資産形成の最終目的地点は、恐らく「老後」でしょう。老後、お金で困るようなことにはなりたくないものです。だからこそ皆、資産形成を頑張っているのかもしれませんが、そこには2つの両極端な勘違いがあるように思えます。どういう勘違いなのか、そして老後の資産形成に適した金融商品は何なのかを考えてみましょう。


資産形成の最終目標は老後

前回、「資産形成で大事なのは、継続的にキャッシュフローを生み出してくれる資産を積み上げていくこと」という話をしました。その話をもう少し深堀してみましょう。

キャッシュフロー(現金流量)というと、ちょっと難しく感じられると思うのですが、金融商品のキャッシュフローとは、何かを保有することで定期的に得られる現金収入のことです。預貯金なら「利息」、債券なら「利子」、株式なら「配当金」、投資信託やJ-REITなら「分配金」がこれに該当します。

また金融資産ではありませんが、実物資産である「不動産」もキャッシュフローを生み出すことができます。ただし、土地のまま持っているだけではダメです。その土地の上に建物を建て、それを誰かに貸して初めて「家賃収入」というキャッシュフローが実現します。

恐らく、記事を読んでいる皆さんが資産形成をする最終目的は、皆さん自身の老後にあると思います。

もちろん、人生の途中には結婚や子供の教育、マイホームの購入などさまざまなイベントがあり、それぞれに支出が伴います。その支出をすべて乗り越えたうえで、自分自身が老後、生活に困らないためのお金をつくるのが、資産形成の最終目的といっても良いでしょう。

ただ、資産形成の方法に関して、両極端な勘違いがあるように思えるのです。

資産形成に関する両極端な勘違い

一方は前回も触れたように、ただひたすら預貯金やタンス預金にすることを資産形成と勘違いしている人たちです。

でも、いくらタンスの奥に現金を仕舞い込んでいたとしても、100万円は10年、20年が経過しても100万円でしかありませんし、少なくとも今の金利水準では、預貯金でも年0.002%程度の利息しか得ることが出来ず、数回、ATMで休日や時間外に出金すれば、手数料負けしてしまいます。「資産」は将来、何らかの収益をもたらすものでなければなりません。したがって、せっせと貯めた定期預金残高が1,000万円になったとしても、それを資産形成と言うにはいささかお粗末です。

そしてもう一方が、資産の額を少しでも早く、大きくしたいという意識が強過ぎて、度を越えたハイリスク・ハイリターン型の投資商品に手を出す人たちです。
実際、1年間で2倍増、3倍増を狙える投資商品はあります。

たとえば暗号資産の一種であるビットコインの価格は、2020年1月時点で70万円前後でしたが、2021年1月末時点で381万円まで値上がりしました。たったの1年間で5倍以上になっています。

また金価格はそこまでドラスティックではありませんが、たとえば2018年8月の国内金価格は1グラム=4,200円程度で、2020年7月には6,900円程度まで値上がりしました。1年弱の値上がり率は64%にもなります。

このように短期間で値上がりする投資商品を見ると、頭のなかで「1年で5倍に増えるなら、手元にある400万円をすべて暗号資産にしておけば、2,000万円問題なんて一気に解決できる」などと計算してしまいがちですが、ここに大きな落とし穴があります。

インカムゲインと適正価格

暗号資産も金も確かに高いリターンが得られる可能性を持っているのですが、得られる収益は値上がり益のみです。株式の配当金、J-REITの分配金のようなインカムゲイン(継続してもらえる利益)は一切生じません。

一定率のインカムゲインがあれば、価格が下がったとしても、長期保有することでインカムゲインが積み上がっていくため、値下がりで損した分をある程度カバーできます。仮に配当利回りが5%の株式を保有して、株価が50%下落したとしても、その銘柄を10年保有し続ければ、50%の損失を年5%の配当でカバーできます。結果、投資商品の値下がりリスクをある程度、緩和できるのです。

もっと言うと、暗号資産や金には現状、適正価格を計算する方法がありません。株式なら企業の稼ぐ力、保有している資産、ブランド価値、販売網や商品力などを計算して大まかな適正価格を算出できます。それに対して今の株式市場で形成されている株価が割高なのか、それとも割安なのかを判断できます。J-REITもファンドに組み入れられている不動産物件の価値を計算することで、現在の投資口価格が割高か割安かを判断できます。

このように適正価格が計算できる投資商品であれば、今、形成されている価格が割高か割安かを、大勢の市場参加者がウォッチしているので、バブル形成やバブル崩壊のような極端な状況にならない限り、比較的緩やかに価格が形成されていきます。

ところが暗号資産や金のように適正価格が計算できない投資商品の場合は、合理的な価格形成が行われず、もっぱら市場参加者のセンチメントによって価格が大きくブレます。結果、極めてハイリスク・ハイリターンな性質を持つようになってしまうのです。

老後の資産形成に向いている金融商品は?

もちろん、預貯金や暗号資産、金による運用を完全否定するつもりはありません。預貯金は非常に高い流動性を持つので、いざ現金が必要になった場合に備えて、多少の額は持っておく必要があります。暗号資産も、ひょっとしたら将来、決済手段のひとつとして有力な存在になるかも知れないので、ちょっとした予行演習のつもりで少額を持つのは良いでしょう。

ただ、それらを資産形成、なかでも老後の資産形成の対象に用いるのは避けた方がいいでしょう。よく「老後の資産運用はリスクのない預金か債券で」などと言われますが、それは預金に預けておくだけで年6%くらいの利息が得られた30年も前の考え方であり、超低金利が長期化している現代には通用しません。

老後の資産形成は、長期的に価値を創造し続けると思われる国内外の企業の株式、安定した賃料収入を分配金として投資家に還元してくれるJ-REIT、それらを組み入れた投資信託で、安定した配当金や分配金の実績を維持しているものを選ぶことも大切です。

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