横浜市営交通が100周年 地下鉄ブルーライン延伸計画など、公営交通の現状と展望を見る

1972年に最初の伊勢佐木長者町~上大岡間が開業したブルーラインは、正式には湘南台~関内間の1号線と関内~あざみ野間の3号線に分かれます。 写真:ゆうじ / PIXTA

横浜市営交通(横浜市交通局)が2021年4月に100周年を迎えます。歴史の始まりは1921年、民間の横浜電気鉄道が運営していた路面電車を横浜市が買収して、横浜市電として運行したこと。かつては市電やトロリーバスもあった横浜市交ですが、現在は市営地下鉄と市バスに集約されています。

最近は地下鉄・市バス合わせて、1日当たり約100万人が利用。コロナで状況は変化したものの、2018年度まで9年連続で一般会計からの補てんなしに黒字を確保するなど、〝公営交通の優等生〟といえる存在です。100周年の節目を機に、地下鉄を中心としたハマの公営交通のあれこれをみてみましょう。

ブルーラインとグリーンラインの2路線

グリーンラインは2008年3月に開業しました。架線集電で、いわゆるリニアメトロ方式を採用します。 写真:line / PIXTA

横浜市営地下鉄(正式には高速鉄道事業)は、ブルーライン(湘南台~あざみ野40.4km)とグリーンライン(日吉~中山13.0km)の2路線で、2018年度の1日当たり利用客は約69万2300人。神奈川中央交通や東急バスをはじめとする民間バスとエリアを分け合う市営バスは、営業キロ513.7kmで同じく約35万1400人というのが市営交通の現状です。

市営地下鉄の話に先立ち、横浜市の交通事情をみてみましょう。多くの方は横浜というと、高層ビル街のみなとみらい21地区やグルメスポットの横浜中華街を思い浮かべるかもしれませんが、それは横浜のほんの一部。横浜市の面積は437平方キロで、大阪市の2倍以上あります。市内中心部は公共交通が発達していますが、外縁部には一部交通空白地帯があったりします。

高齢化が進む

横浜市の交通政策を示すのが2018年末、10年ぶりに改定された「横浜都市交通計画」。市の人口は約370万人で、目立った人口減少はないものの、これからは高齢化が急ピッチで進みます。2015年に全体の23%だった65歳以上の高齢者は2030年には27%にアップし、75歳以上が16%を占めます。公共交通は一進一退といった状況で、きめ細かいサービス提供が求められます。

新しい交通計画には高齢化のほか、訪日外国人増加、ICT(情報通信技術)進歩といった環境変化を反映させました。①市民生活の質の向上につながる都市交通 ②都市の成長を支え、魅力を高める都市交通 ③持続可能で安全安心な都市づくりに役立つ都市交通――を3本柱に、鉄道ネットワークの整備と輸送力増強などを進めます。

神奈川東部方面線で東京都心直行

相鉄・JR直通線路線図 画像:相模鉄道

鉄道関係では、2つのプロジェクトが進みます。一つ目は2019年11月末、「相鉄・JR直通線」が開業した神奈川東部方面線。鉄道チャンネルでもリポートさせていただきましたが、相鉄本線とJR湘南新宿ライン(東海道貨物線)をつなぎ、横浜市西部や神奈川県央から東京・渋谷や新宿への乗り換えなしのアクセスを実現しました。

神奈川東部方面線は引き続き、2022年度下期開業を目指して東急電鉄日吉方面に延伸工事中で、新横浜での東海道新幹線乗り換えが便利になります。2020年12月には、東急電鉄が新横浜線(東部方面線の東急部分の線区名)の綱島地区に開業する新駅の駅名を「新綱島」に決定して、話題を呼びました。

画像:東急電鉄

シーサイドラインが京急に接続

もう一つは、京浜急行電鉄と横浜シーサイドラインが接続する金沢八景駅周辺の整備事業。シーサイドラインの金沢八景駅を京急側に約150m移設、乗り換えを便利にします。シーサイドライン駅は現在は単線ですが、2021年2月14日に複線化されるそうで、別稿で紹介しました。

【関連記事】
2021年2月14日に金沢八景駅の線路切り替え 横浜シーサイドラインがホーム1面2線化
https://tetsudo-ch.com/11165970.html

安全・快適の向上と街づくりへの貢献

横浜市交・中計の体系。「4つの基本姿勢」と「4つのミッション」を柱の施策とします。 画像:横浜市交

ここから本題、横浜市営地下鉄の針路。2019年に策定され、2021年4月に折り返し点を回る「横浜市営交通 中期経営計画」を基に〝次の100年〟を探りましょう。市営交通が目指すのは街づくり施策と連携しながらの移動ネットワークの維持・充実。図で、基本の考え方を紹介しましたのでご参照下さい。

重視するミッションは、「お客さまの安心と信頼を運ぶ」。メニューのうち、読者諸兄に興味を持っていただけそうな「サードレールの脱落防止対策」を取り上げましょう。

地下鉄ブルーラインは、東京メトロの銀座線や丸ノ内線、大阪メトロの御堂筋線などと同じ、線路脇の3本目のレールから集電するサードレール方式を採用します。日本式には第3軌条で、こちらの名称の方がなじみ深いかもしれません。

高架区間でサードレールを補強

サードレールの構造。脱落対策は2018年の大阪北部地震で脱落があったことを教訓に実施を決めました。 画像:横浜市交

架線の鉄道でも同じですが、サードレールが地震などで脱落すると長期の運休が避けられませんから、レールの補強は大切な安全対策。補強するのは地下鉄が地上を走る高架区間で、2019年度から3年間で約6.4kmの対策を完了するそうです。実際にどのような対策を取るかは、図をご覧下さい。

安全対策ではもう一つ、ソフト面からの「安全を支える職員の育成」もあります。職員の健康維持を経営課題としてとらえ、やる気の向上や組織活性化から安全重視する企業文化を醸成します。鉄道会社では頻繁に耳にするフレーズですが、「安全の最後の砦(とりで)は人」。健康重視の経営は着実に成果を上げます。

ブルーラインは川崎・新百合ヶ丘へ

ブルーライン延伸区間の概略ルートと駅位置図。 画像:横浜市交

次の100年の幕開けを飾るプロジェクトとしてスタートを切ったのが、地下鉄ブルーラインの延伸。目的は少々抽象的ながら、「鉄道ネットワークの充実による広域移動性の向上と、新駅周辺の街づくりによる沿線エリアの活力向上」。2019年に横浜市として、事業化(地下鉄新線の建設)を判断。同年9~10月には「川崎側の有力ルート案の考え方」について意見を募集し、2020年1月に概略ルートや駅位地が公表されました。

延伸ルートでは、横浜市営地下鉄が川崎市に伸びます。横浜、川崎の両市は、延伸に関して相互に連携・協力していくことを柱とする覚書を交わしています。

あざみ野からの延伸区間は小田急電鉄新百合ヶ丘駅南口付近までの約6.5kmで、横浜市交通局が事業主体となり、新しい建設区間を運営します。ルートは地下トンネルを基本に、あざみ野を除き新駅4駅を整備します。

新駅位置はあざみ野側から嶮山付近、すすき野付近、ヨネッティー王禅寺付近、新百合ケ丘駅南口付近。嶮山は横浜市青葉区、すすき野は横浜市、川崎市の境界付近、ヨネッティー王禅寺と新百合ケ丘は川崎市麻生区です。ヨネッティーは川崎市立のスポーツ施設。嶮山の読み方は「けんざん」です。皆さん読めましたか(私は読めませんでした)。

整備効果では、新百合ヶ丘~あざみ野間が約10分(現在は路線バスで約30分)、新百合ヶ丘~新横浜間が約27分(同じくJR横浜線経由で約35分)に短縮されます。概算事業費は約1720億円で、開業は2030年目標。1日当たり約8万人の利用を想定します。いずれにしても、人口減少に向かう首都圏では数少ない鉄道の建設計画に注目しましょう。

グリーンラインは一部6両化

もう一つのブロジェクトが、グリーンラインの輸送力増強。2008年に開業した同線は平日朝ラッシュ時の混雑が目立つようで、2022年度には全17編成のうち3編成を2両増結して6両化します(2024年度までに10編成を6両化)。駅関係では東山田駅、北山田駅などでホーム延伸工事が始まっています。

横浜市は現在、「市営交通100周年特設ウェブサイト」を開設。「100周年記念事業の紹介」、職員の思いを紹介するコラム「100の一歩」「市営交通の歴史」の3項目で情報発信しています。キャッチフレーズは、「横浜の街とともに、これまでも、これからも。」。本稿で興味を持った皆さん、ぜひ一度のぞいてみて下さい。

100の文字と地下鉄、バスを図案化した「100周年記念マーク」 画像:横浜市交
今回は地下鉄の紹介でしたが、横浜市営バスも2020年7月から横浜港エリアに連節ハイブリッドバス「BAYSIDE BLUE(ベイサイド・ブルー)」を運行するなど、意欲的な取り組みを進めます。 写真:くろてん / PIXTA

文:上里夏生

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