コロナ禍で米国人の心に起きた小さな変化 宗教への回帰「神から与えられた試練」【世界から】

 新型コロナウイルスの感染者が2700万人を超えた米国。人々の日常はあらゆる面で変化を余儀なくされた。通勤が制限され、長距離の移動は減少した。在宅勤務が一般化し、航空株は暴落、一方でGAFAと呼ばれる巨大IT企業はかつてない繁栄を享受している。こうした中、米国人の心に小さな変化が起こった。宗教、とくにキリスト教への回帰だ。(共同通信特約、ジャーナリスト=岩下慶一)

 ▽信仰心の高まり

 ワシントンDCに拠点を置くシンクタンク「ピュー研究所」が昨年夏に実施したアンケートによれば、米国人の28%が「コロナ後に宗教心が強くなった」と回答している。このアンケートは世界14カ国で実施されたが、米国は2位のスペイン16%を大きく引き離して第1位となった。

ニューヨーク、ウォールストリートのトリニティー教会。コロナ対策のため実際の礼拝は行わず、すべてバーチャルとなっている(岩下慶一撮影)

 過去20年、米国人の信仰心は右肩下がりで落ち込んできた。世論調査会社ギャラップによれば、特定の信仰を持たないと答えた米国人は、2008年に14・6%だったのが17年には21・3%となった。米国人の5人に1人が無宗教ということになる。キリスト教以外の宗教では顕著な減少は見られないため、主にクリスチャンの減少が進んでいると考えられる。

 今回調査を行ったピュー研究所も、19年10月に「米国におけるキリスト教離れ」についてのリポートを発表し、07年に78%だったキリスト教徒が18、19年の調査で65%に下落したことを指摘したばかりだ。

ピュー研究所によるアンケート調査の結果

 コロナ禍は、ほんの一年足らずでこの傾向に歯止めをかけた。今回のアンケートでコロナによって宗教心が高まったと答えた米国人は28%、特に変化なしが68%、逆に弱まったという答えは4%となっている。また、35%の米国人が「コロナは神から与えられた試練」だと考えているという。いかにもキリスト教的な解釈だが、前代未聞の災難を前に、普段無宗教を自認している人々も信仰心をよみがえらせたようだ。日本も今回の調査の対象国に含まれているが、宗教心が高まったという質問にイエスと答えたのはわずか5%、変化なしが92%、弱まったが1%となっており、無宗教国家という印象をさらに強めた。

 ▽家族の絆も強く

 もう一つ興味深いのは、信仰心と同時に家族の絆が強まったと答えた米国人が41%に上ったことだ。戦争や騒乱などと違い、身近な人々が危険にさらされているコロナ禍では、近しい人々を気遣う気持ちが強まることは容易に想像がつく。またこの傾向は若い世代で特に顕著で、18~29歳の区分で家族への愛が高まったと答えたのは50%、2人に1人となっている。普段は家庭よりも外の世界に目を向けがちな年代が、ロックダウンで外出もままならず、家族に対する思いを強めたということなのだろうか。ちなみにイギリスでは41%、スペインでは42%がこの質問にイエスと答えている。日本の数字はここでも低く、絆が強まったという回答は18%、韓国と同率の13位となっている。

 ▽IT化が進む教会

 米国人の宗教回帰のもう一つの要因は、教会のIT利用が進んだことではないかと筆者は考えている。現在多くの教会が、ソーシャルディスタンスを維持するために礼拝や行事を中止しているが、その代用として、会議用ソフト、「WhatsApp」や「Zoom」を利用した活動を行うようになった。正確な数字は不明だが、規模の大きい教会の多くが、礼拝などの活動をライブカメラによってストリーミングしている。中にはZoomによる結婚式や洗礼を行っているところもある。自宅からスマートフォンで朝の礼拝に参加し、クレジットカードで寄進するというわけだ。ワシントン州シアトルの大手IT企業では、教会関係者向けに会議用ソフトウエアの使用方法をレクチャーしている。一般企業と同様、教会においてもIT化の波が押し寄せているようだ。

教会に行かなくても自宅で礼拝ができる

 米国の宗教回帰は継続的なものか、それとも一過性で終わるのか。それは時を経ないとわからない。しかし、家族の絆、日曜の礼拝といった、過去の習慣と思われていたことが、コロナ禍の中で復活の兆しを見せているのは確かなようだ。

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