タコつぼ掃除の“新定番” 岳野さん開発「貝殻落とし」 ネットで拡散、漁師に好評

「タコつぼ掃除を効率的にしたいという思いが、瀬戸内の漁師たちにも届きうれしい」と話す岳野さん=西海市大瀬戸町

 長崎県西海市大瀬戸町の岳野建治さん(72)が発明したタコつぼ内の貝殻落とし器具の利用が、国内有数のタコの漁場、瀬戸内海の漁師にも口コミで広がっている。岳野さんは「最初は驚いたが、大瀬戸の漁師と開発したものが他の漁場でも受け入れられたようでうれしい」と喜び、さらなる器具開発に意欲を見せている。
 発明したのは金属製ワイヤ、ばねなどを組み合わせた楕円(だえん)型の器具。市販の電気ドリルに取り付け、つぼの中に入れて回転させることで、内部に付いた貝殻をたたき落とす仕組みだ。
 岳野さんは関西の電子機器メーカーを退職後、2010年、大瀬戸町にUターンした。ある日、知り合いの漁師から「タコつぼの掃除を手伝ってくれないか」と声を掛けられた。素焼きのつぼには白い貝殻がびっしり。数千個ある重いつぼを一つ一つ抱え、草刈り鎌やへらで除去する作業は想像以上につらく「何とか楽にできないか」と開発に着手した。
 漁師と試行錯誤しながら16年に現在の形にたどり着き、19年3月に本紙などで紹介された。当時は平戸など県内の漁師から引き合いがあった。
 そして昨年7月。インターネットで器具を知ったという岡山の漁師から「試してみたい」と注文があり、その後も兵庫、香川、愛媛から問い合わせが相次いだという。本年度は既に約80個を製作。発送先の約4割が瀬戸内海沿岸だった。
 漁の様子を動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開している香川県丸亀市の小見山泰一さん(49)も利用者の一人。「過去にゴムベルトで類似品を作ったが、きれいに落ちなかった」と振り返る。使っているつぼはプラスチック製で、大瀬戸と材質は異なるが「(岳野さんの器具は)一瞬で落ちるから手作業に比べて時間は10分の1。仕事が楽になった」と評価する。

ユーチューブ「塩飽の漁師たいち」のタコつぼの準備風景

 同県宇多津町の男性漁師(60)は「耐久性が向上すれば」と指摘しながら、「道具は実践しながら作るもの。昔は地元に小さな工場があったが、みんな辞めてしまった。“発明家”がいてうらやましい」と岳野さんの活動に敬意を表する。
 そんな漁師からの声を受け、耐久性を向上させた改良型や、つぼ表面の殻を取り除く器具の開発を進めている。西海市内の精密金属加工メーカーから「部品作りが楽になるように」と金型を提供してもらったが、組み立ては手作業。「業者が作ってももうからんでしょう」と笑顔の岳野さん。「後継者はおらず、いつまで続くか分からないが、喜んでもらえることがやりがい」と力を込めた。


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