朝8時、米海軍厚木基地から「国歌が聞こえる」 謎を追ってみた

在日米海軍厚木基地の南東側。奥には滑走路がある。この辺りでは国歌が聞こえる=大和市

 在日米海軍厚木基地(神奈川県大和、綾瀬市)近くに住む女性から「追う! マイ・カナガワ」取材班に疑問が寄せられた。「朝8時、米国国歌に続き君が代が聞こえてきます。基地に関係しているのでしょうか。ここに住んで約20年ですが、秋からのような気がします」。米軍取材を担当する記者が、その謎を追った。

 米国でジョー・バイデン大統領が就任した直後の1月下旬のある朝、大和市の同基地東側のエリアに、記者は向かった。

 基地の近くで待つと、午前8時、就任式では歌手レディー・ガガさんが「オー、セイ、キャン ユー シー」と独唱したあのメロディーが聞こえてきた。

 続いて君が代が流れた。「土日の朝、布団の中からは聞こえますが、平日家事などをしていたら聞こえないくらいの音」という女性の話と合致する。

 女性はこの現象がどうしても気になり、マイカナへの取材依頼の後、自ら大和市にも問い合わせたという。「基地に対応を求めた」との返答に満足していたというが、数日後に「今朝も聞こえる。神奈川で起きていることとして多くの人に知ってもらいたい」と、再び取材班に依頼してきた。

◆横須賀でも流れる

 実は、横須賀基地の近くに住んでいる記者も毎朝、両国国歌を聞いているが、1年余りですっかり慣れた。周囲に聞いても、横須賀に長年勤務する男性が「同じ時刻に流れるから、徒歩通勤の際の目安になる」と話すなど、横須賀では毎朝の国旗掲揚に合わせて流れる米国国歌を自然に受け入れている人が多いようだ。

 すべての基地で毎朝、行われているのだろうか。在日米軍司令部(東京都)に尋ねると、「国旗掲揚時の国歌演奏は基地司令官が決めている」との回答。同司令部がある横田基地では国旗は常時掲揚し、国歌を流すのは午後5時だという。

 自衛隊はどうなのか。陸海空自衛隊それぞれに尋ねた。海上自衛隊は午前8時、陸上自衛隊と航空自衛隊は駐屯地、基地ごとに時刻を定め、国旗掲揚して君が代を流しているらしい。

 基地で国歌を流すのは今に始まったことではないとすると、厚木基地周辺ではなぜ最近聞こえるようになったのだろう。

 大和、綾瀬両市の基地対策課に取材すると、昨秋以降、大和市には「音が大きい」「寝ていても起こされる」といった声が複数寄せられ、そのたびに市は同基地に改善を求めてきたということが分かった。

◆防災無線のようなもの

 なぜ改善されないのか。記者は、厚木基地の担当者に直接問い合わせた。

 「日米両国旗の掲揚、国歌演奏自体は1950年12月から行われている。在日米軍として、自国と受け入れ国に敬意を払うために日米の国旗を掲揚する。また、過去に多くの犠牲が払われたことを忘れないために米国国歌と君が代を流す」と説明があった。

 その上で、「昨年9月に新しい広域放送システムを採用した」と明かされた。

 「理想的には地域のシステムと一体化できればいいのですが…」。同システムは日本の防災無線のようなもので、基地内の居住者に加え、基地周辺に住む米軍の家族も含めて英語の放送を広く伝えることが目的という。これが昨年9月に更新され、音が聞きやすくなったというのだ。

 大和、綾瀬両市は、放送設備を更新したため聞こえ方が変わるかもしれないと米軍から説明を受けたという。米軍は大和市の要請を受けて、すでに音量制限も行っていると説明する。

 基地の外に音を聞こえるようにすることが目的であれば、これ以上の改善は難しいのだろうか。

◆長い歴史、住民感情に影響か

 横須賀は旧日本海軍の拠点として街が発展したこともあり、反基地感情が比較的少ないとされる。一方で、厚木基地周辺には、空母艦載機の騒音問題に悩まされてきた長い歴史がある。

 艦載機の騒音と国歌では全く異なるとはいえ、投稿者の女性の違和感や複数の改善要求の声が、そうした住民感情と無関係ではないようにも感じられた。

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