「野良猫餌やり」市条例あるけれど… フン害に住民困惑 罰則なしの理由は?

餌を食べる野良猫(写真と記事は関係ありません)=鹿児島市

 「91歳の義父が所有する月決め駐車場に、野良猫がふんをして困っている」。鹿児島市の男性から編集局に手紙が届いた。マンションが立ち並ぶ一角にあるその駐車場は、猫にとって居心地がいいようには見えないが、昨春から4~8匹が住み着いているという。飼い主ではない「餌やりさん」がいるらしい。不適切な「餌やり」は市の条例で禁止されているのに、なぜなくならないのか。

 男性によると、野良猫は駐車場の砂利が多い部分を好むらしく、「多いときは5カ所くらいにふんをしていた。解約する人も出るほどだった」と嘆く。

 屋外で複数の猫を飼っている人を見つけたため、市に昨秋連絡。担当者が訪問した際、その人物は「野良猫の世話をしたつもりはないが、置いてある餌を食べられたかもしれない」と話したという。

 男性は市に相談を重ねて、駐車場入り口に「野良猫への不適切な餌やりは条例違反」と書かれた紙を貼った。猫よけの薬剤や、猫が嫌いな超音波を出す装置も使ったところ、状況は改善しつつあるという。

 しかし、地域から野良猫が消えたわけではない。「餌やりさんの気持ちも分かるが、自分と同じように困っている人は多いはず」。男性は複雑な表情を見せた。

■強い繁殖力
 野良猫に関する苦情や相談は、市生活衛生課に寄せられる。同課によると、複数の猫が一定の場所に集まっている場合、近くに餌やりさんがいる可能性が高い。多くは近所の高齢者か、自分が住んでいない場所から出向き餌をばらまく人だ。「かわいそうだから」と餌をあげるが、1年で一組から30~50匹に増える猫の繁殖力を知っている人は少ないという。

 市は昨年6月、「動物の愛護及び管理に関する条例」を施行した。動物愛護に関する条例は県にもある。ただし、犬の飼育に関する規定は多いが猫は少なかった。

 そこで市は、餌場の管理やふん尿の始末、不妊・去勢手術をする地域猫活動を除き、飼い主のいない猫に対する不適切な給餌を条例で禁じた。猫の多頭飼育(10頭以上)の届け出も義務化。一方、違反した場合の罰則は盛り込まなかった。

■結果残す和歌山
 「抑止力を与えるために罰金を高額にすべきではないか」。条例制定に合わせて鹿児島市が実施したパブリックコメント(意見公募)には、罰則規定を求める意見もあったという。

 罰則を見送った理由を市生活衛生課は、(1)不寛容な社会となり、地域内の分断を生む恐れがある(2)地域猫活動推進の妨げになる可能性がある(3)初めての条例なので様子を見たい-などと説明する。

 過料を設けて結果を残している地域もある。鹿児島市と同じように地域猫活動を推進する和歌山県だ。2017年、条例に違反して餌やり行為を続け、指導・勧告・命令を受けても改善しなければ5万円以下の過料を課す規定を盛り込んだ。

 担当する食品・生活衛生課によると、規定を設けてから地域猫活動はさらに広がったという。昨年10月末までに527地域のべ1312人が活動した。猫の排せつ物や鳴き声などの苦情は15年度に1752件あったのが、19年度は1203件に減少した。

 現状では鹿児島市が条例を見直す予定はない。生活衛生課の川原成明課長は「罰則なしでも不適切な餌やりがなくなるのが一番。市民の良心を信じてまずは条例の周知に努めたい」と話した。

駐車場の入り口に掲示した餌やりを禁じる表示板=鹿児島市

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