酒米の育ち、ドローンで空から把握 酒造などが実証実験

2019年夏に行われたドローンによる水田の撮影=海老名市内(泉橋酒造提供)

 海老名市下今泉の泉橋酒造と県立産業技術総合研究所が、良質な酒米づくりに欠かせない稲の生育状況の把握に、無人機ドローンを活用する実証実験を進めている。ドローンに搭載した特殊カメラで、水田全体を空撮。きめ細かい生育状況の把握が容易となり、育ちが芳しくないエリアに重点的に肥料を施すなど、臨機応変な対応が可能になるという。日本酒の出来を左右する酒米の品質向上に有効なツールとなるか、注目される。

 同社は「酒造りは米作りから」を信念とし、地元産米を原料にした日本酒造りに力を入れている。1997年に地元の米農家と「さがみ酒米研究会」を発足。現在は同研究会の農家7軒と同社が所有、借り受けしている水田計46ヘクタールから大半の酒米を調達している。

 これらの水田は東京ドーム10個分に相当する規模で、海老名、座間、相模原市に所在。同社によると、良質な酒米づくりにはタンパク質含有量を一定の幅に収めることが重要で、見極めるには葉の緑色の濃淡がポイントという。従来は生産者が広大な水田で生育状況を目視でチェックしていたが、労力が大きく、確認できるのは一部にとどまっていた。

 そこで着目したのがドローンの活用だ。県の「さがみロボット産業特区」の強みを生かし、同社は産総研などと連携。ドローンの操縦や撮影の技術を習得した同社の犬塚晃介さんを中心に、2018年から稲の生育状況をドローンで俯瞰(ふかん)的に撮影する実証実験を進めている。

 ドローンに搭載するのは複数の波長の光で撮影できる特殊なカメラで、19年と20年の夏に海老名市の水田で生育状況を上空から撮影。稲の葉の色を微細に見ることができるといい、一つの水田でも生育にむらが生じることなども分かってきた。

 米のタンパク質の含有量が少ないほど、酒はすっきりした味わいに仕上がるといい、同社の橋場友一社長は「収穫前にタンパク質の含有量などが把握できれば、精米などで対処しやすくなる」と説明。「ドローンを使えば広い水田の状況をくまなく、素早く把握できる。生育状況のむらをつかむことができれば、肥料などのやり方で工夫が可能になる」と手応えを語る。

 現在は産総研とともに、撮影映像の解析結果と収穫米の成分とを照らし合わせるなど、ドローン活用の有効性の検証を続けている。産総研は「実証実験の有効性が裏付けられれば、ドローンを使った神奈川発の酒米に関する技術の全国展開も視野に入る。日本酒の質を高めることにつながれば」と期待する。

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