あの車内アナウンスは誰の声? 「鉄道なにコレ!?」第16回

By 大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

 「次は新宿、お出口は左側です」などと電車内で流れる放送。かつては男性車掌のダミ声をしばしば耳にしたが、最近は流ちょうに案内してくれる録音された自動音声を聴く機会が増えた。「この声は誰なのだろう?」と思う皆さんに、ちょっとだけ種明かしをしたい。(共同通信=大塚圭一郎)

 【列車の車内放送】車内で乗客に対して次の停車駅、進行方向の左右どちらのドアが開くのか、乗り換えられる他の路線などを案内する。かつては車掌がマイクを握って放送するのが一般的だったが、最近は録音した自動放送を流す鉄道会社が多くなってきた。列車に運転士だけが乗務するワンマン化に伴い、自動放送を活用する動きもある。筆者が現在、通勤に利用している米国の首都ワシントンの地下鉄「ワシントン・メトロ」もワンマン運転をしており、自動放送を採用している。(参照:鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の拙稿「車に乗らずにBMW」、https://www.47news.jp/47reporters/tetsudou/6362.html

 ▽成田エクスプレス、新旧ともに共通点

 JR東日本の特急「成田エクスプレス」に乗り込むと、放送開始を知らせるチャイムの後にスムーズな自動音声が流れる。元フジテレビジョンのアナウンサー、堺正幸さんの声だ。JR東日本の新幹線や在来線特急でも耳にするので、おなじみの方も多いだろう。

 成田エクスプレスで活躍していた先代の車両、253系を使っている長野電鉄の特急「スノーモンキー」2100系の車内放送も同じチャイムが流れ、「ご乗車ありがとうございます。この列車は特急スノーモンキー湯田中行きです」という男性の声の名調子が旅の始まりを告げる。

長野電鉄の特急「スノーモンキー」に用いられている旧JR東日本253系=2019年7月、長野県須坂市(筆者撮影)

 声の主は堺さんではないが、二つの共通点がある。それらは何か?

 昨年11月に長野駅からスノーモンキーに乗った際、しばらくすると声の主が車内の液晶画面に流れた。「この電車の車内アナウンスは、SBC信越放送の山崎昭夫アナウンサーが担当しています」

長野電鉄の特急「スノーモンキー」に用いられている旧JR東日本253系=2020年11月、長野県山ノ内町(筆者撮影)

 山崎さんは地元の有力放送局、SBC信越放送(長野市)の名物アナウンサーで、かつてフジテレビの局アナだった堺さんと共通する。さらに、両者とも熱心な鉄道ファンなのも一致しているのだ。

 山崎さんらが昨年9月まで司会をしていたラジオ番組「らじカン」で、私も3年間にわたって番組内のニュースを解説するコーナーにほぼ毎週出演させていただいた。鉄道好きの山崎さんの持ち味を存分に発揮していただこうと、微力ながら努めたのが鉄道関連のテーマを折に触れて紹介させていただくことだった。

 鉄道関連の放送に携わる際の山崎さんは、普段にも増して饒舌(じょうぜつ)だ。鉄道にあまりなじみのない方にも分かりやすいように表現を補足してくださるなど、水を得た魚のような進行ぶりだった。

スノーモンキーの由来となった冬場に温泉に入る地獄谷野猿公苑のニホンザル。まるでお酒を味わっているような姿勢=2020年11月、長野県山ノ内町(筆者撮影)

 終点の湯田中駅に着いて車内の写真を撮っていると、「ご乗車ありがとうございました」と山崎さんの声で“退出”を求められた。「すみません山崎さん、すぐに降ります!」とつい独り言をつぶやき、慌てて扉へ向かった。

 なお、小田急電鉄のロマンスカー「HiSE」10000形だった車両を活用した長野電鉄の特急「ゆけむり」1000系の自動放送も山崎さんの声だ。長野電鉄の特急に乗れば、山崎さんが100%水先案内人となってくださる。

長野電鉄の特急「ゆけむり」に使われている旧小田急電鉄ロマンスカー「HiSE」10000形=2020年11月、長野県山ノ内町(筆者撮影)

 ▽幻の“直通運転”?

 余計なお世話ながら、長野県の第三セクター、しなの鉄道の自動音声に山崎さんを売り込んだこともある。2018年にしなの鉄道のイベントで当時社長だった玉木淳さん=現東京海上日動火災保険(中国)総経理=、山崎さんとご一緒した際、まだ導入されていなかった同社で初めての新型車両「SR1系」に話が及んだ。

しなの鉄道の新型車両「SR1系」=2020年11月、長野県軽井沢町(筆者撮影)

 山崎さんからは言い出しにくいだろうと、私が「車両を新しくするのに合わせて自動音声に山崎さんを起用したらどうですか?」と玉木さんに水を向けると、玉木さんは「山ちゃん、車内アナウンスをしてみる?」と乗り気のように見えた。ところが、山崎さんが意外にも口ごもってしまい、うやむやになってしまった。残念ながら、山崎さんの長野電鉄からしなの鉄道への“直通運転”は今のところ実現していない。

 それでは昨年7月に運行が始まったSR1系の車内放送で白羽の矢が立ったのは誰なのか。関係筋から日本語の声が加藤純子さん、英語が亀井シーナ佐代子さんという情報を得たため、しなの鉄道に問い合わせたところ「SR1系の製造元である(筆者注:JR東日本子会社の横浜市にある鉄道車両メーカー)総合車両製作所に確認したところ、大塚様ご指摘のとおりでございました」と教えていただくことができた。

 加藤さん、亀井さんはともに多くの鉄道路線の自動放送を受け持っているフリーアナウンサーだ。亀井さんは東京メトロの英語の声も受け持っており、通勤通学の途中に美声で癒やされている方も多いはずだ。

 東京メトロの英語自動放送をかつて担当していたのはギタリストのクロード・チアリさんの娘で、タレントのクリステル・チアリさんだ。所属事務所のウェブサイトによると、これまでに他にもJR東日本、東急電鉄、東武鉄道、西武鉄道、京王電鉄、小田急電鉄、京成電鉄、新京成電鉄、埼玉高速鉄道、東葉高速鉄道、横浜市営地下鉄、新交通システム「ゆりかもめ」、箱根登山鉄道、仙台市営地下鉄、愛知環状鉄道、神戸市営地下鉄、南海電気鉄道、JR四国、JR九州、西日本鉄道など50路線を超える英語自動放送を収録してきたという。

 ▽女子鉄アナウンサーも活躍

鉄旅オブザイヤーの2018年度の授賞式で司会をする久野知美さん(左)。右は「ダーリンハニー」の吉川正洋さん=19年2月6日、さいたま市の鉄道博物館(鉄旅オブザイヤー運営事務局提供)

 私が審査員を務めさせていただいている鉄道旅行の最高峰を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」で司会をしているフリーアナウンサーの久野知美さんも、日本語の自動放送でおなじみの存在となってきた。

 鉄道友の会の2020年度のブルーリボン賞を受けた西武鉄道の特急用車両「ラビュー」001系も、東武鉄道が昨年6月に運転を始めた座席指定電車「THライナー」で活躍する電車70090型も、車内で流れるのは久野さんの声だ。

西武鉄道池袋線を駆ける特急用電車「ラビュー」001系=2019年7月、東京都西東京市(筆者撮影)

 久野さんは自他ともに認める「女子鉄アナウンサー」で、鉄旅オブザイヤーの司会も「鉄道が好きなので快く引き受けていただいているが、ギャラは申し訳ないほどの金額」(関係者)とか。2013年度から審査員を務めている筆者のギャラは「鉄道なにコレ!?」第2回「鉄道旅行賞の審査員のギャラは何と!」(https://this.kiji.is/544340393971270753?c=39546741839462401)で明かしているのでぜひご一読いただきたい。

 新型コロナウイルス感染拡大で緊急事態宣言が出され、鉄道博物館(さいたま市)で2月3日に予定されていた20年度の授賞式は延期になってしまった。コロナ禍が収まり、久野さんの生き生きとした声が鉄道博物館のホールに響き渡る日が早く訪れることを心待ちにしている。

鉄旅オブザイヤーの2018年度の授賞式での久野知美さん(左)。中央は「ダーリンハニー」の吉川正洋さん、右はホリプロの南田裕介マネージャー=19年2月6日、さいたま市の鉄道博物館(鉄旅オブザイヤー運営事務局提供)

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、随時お届けしています。ぜひご愛読ください!

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