元巨人“青い稲妻”の異名をとった松本匡史の今 66歳でも野球の深さを感じる理由

現在は野球塾「BEベースボールアカデミー」で指導している松本匡史氏【写真:編集部】

東京・自由が丘で野球塾「BEベースボールアカデミー」で小学生対象に指導

巨人で“青い稲妻”の異名を取り、盗塁王を2度獲得。2軍監督などを務めた松本匡史氏が、昨年11月に所属事務所が開設した小学生を対象とした野球塾で指導を行なっている。一方で首都大学リーグ2部の玉川大で特別コーチも務めるなど野球と向き合っている。引退して30年以上が経過しても「野球って満足いくことはなかなかないね」と深さと面白さを実感する日々だ。思いは一つ。子供たちに「野球が楽しい」と思ってもらえるように、今も奮闘している。

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小さなスタジオで松本氏の声が響いた。

「ボールをずっと見るんだよ」「よし、いいね。あと5スイングしてみよう」

昨年11月、松本氏の所属事務所が東京・自由が丘で野球塾「BEベースボールアカデミー」を開設。指導者として野球を教えている。この日は2人の小学1年生を指導。約50平方mのスタジオ内で、プラスチックのバットで柔らかいボールを打っている。まだ野球を始めたばかりの子供に、“基礎の基礎”を伝えていた。

「今のうちにきちんとした形を覚えておくのが重要です。大学生でも覚えられていないこともありますから」

入団した少年野球チームによって、個別指導が行き届かないこともある。初心者なのにしっかりと基礎ができないまま、全体練習に入ってしまうとついて行けずに“楽しさ”が半減してしまう恐れもある。全員が基礎ができているとは限らない。松本氏はそこに着目している。

「本来ならば大きなグラウンドでやりたいところではありますが、狭い中でもボールに触れ合うことができれば(基礎練習は)できると思います。塾のような形を取れれば、1時間だけとかスポットでできるので、そういうのでスタートをしてもいいのではないかと考えました」

保護者も子供達も忙しい時代になった。それでも一番は野球を楽しんでほしい。一人でも多くの子供達に野球を知ってほしい。多くの指導者が持つ願いと松本さんの思いは変わらない。だから、指導者としても「考える」ことをやめない。

飽きさせない工夫は「見せること」、実際の試合にも繋がる

「野球を楽しんでもらうために、私もよーく考えるんです。特に低学年の子供たちは集中する時間が短い。待っている時間が長くなると違うことをやってしまう。どうすればいいかと考えています。待っている間に飽きさせないようにする。そうすれば子供たちの心も鍛えられると思うんです」

他の生徒がやっているところを見せるには「どう? ○○君のスイング、かっこいいよね!」と一緒にやっている意識を根付かせる。スタジオの鏡を使って、自分がどう映っているかを見せることも取り入れている。

「野球って見ることも大事。相手投手のことをよく見る。ランナーをよく見る。守備位置を見る……そういうことにも繋がっているので、『見てごらん』って、声をかけています」

難しい言葉は要らないし、怒ることもしない。もちろん、高いレベルになっていけば必要なことかもしれないが、松本氏の塾に通う小学生には楽しんでもらうことの方が重要だ。松本氏の指導を見ていると、この年次を教える指導者は、野球とより真剣に向き合わないといけない。

「思うようにいかないこともたくさんありますよ。長く野球をやっていますが、まだ壁にぶつかることもあります。だから野球がまだ面白いのかな。野球って満足いくことはなかなかないですね。自分がやっている方が簡単ですよ(笑)」

引退して月日が流れたが、時代が変わり、野球も変わっている。通算342盗塁をマークし、シーズン76盗塁のセ・リーグ記録保持者といっても、まだ旅路の途中のようだ。(Full-Count編集部)

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