菅首相が過去に森喜朗会長と同じような女性差別発言 会見で女性は質問するより控えた方が好きかと問われ「そっちのほうがいい」

首相も過去に…(首相官邸HPより)

東京五輪組織委員会・森喜朗会長による性差別発言問題だが、世界中に波紋を広げる一方で、森会長はいまだに辞任しようとしない。本サイトでは6日に、ここまできても産経新聞や橋下徹氏などが擁護的姿勢やコメントをおこなっていることを指摘したが、いまもっとも森会長を守っているのは、言うまでもなく菅義偉首相だろう。

実際、新聞とテレビが差別発言を大きく報じはじめた4日の衆院予算委員会では、菅首相は「森会長が発言された内容の詳細は承知していない」などと驚きの答弁をおこない、その後、立憲民主党の菊田真紀子衆院議員が森会長の発言内容を紹介してようやく「あってはならない発言だと思っています」と述べた。

しかし、5日の衆院予算委員会では、日本共産党の藤野保史衆院議員が「辞職を求めるべきではないか」と問うと、菅首相は「内閣総理大臣にその権限はない」「組織委は公益財団法人であり、総理大臣としてそうした主張をすることはできない」と拒否したのである。

まったく何を言うか。そもそも森氏を組織委の会長に就任させるべく文科省に正式要請したのは、下村博文五輪相、竹田恒和・日本オリンピック委員会(JOC)会長、秋山俊行・東京都副知事(いずれも肩書は当時)だが、実際には〈東京都やJOCは、政治的中立性や資金集めに有利などの理由で財界人を希望〉していた(朝日新聞2014年1月15日付)。ところが、組織運営の主体であるはずの東京都やJOCの意向をよそに森氏を会長にねじこんだのは、当時の安倍晋三首相だ。つまり、公益社団法人であるために総理大臣には選任も解任もする立場にないというのに、安倍首相の意向によって森氏は会長となったのだ。

そして、安倍前首相の“親分”である森会長は、絶対的権力を誇る安倍氏を後ろ盾にしたことで、権限を自分に集中させ、これまで組織委会長として暴言をいくら連発してもスルーされてきた。政府関係者は「森会長にそんたくするあまり、政界も官僚も誰も何も言えなくなった」と述べている(毎日新聞5日付)。

菅首相にしても、直接解任させることができずとも、公然と性差別発言をおこなって国際社会から非難を浴びるという国益にかかわる状況に陥っているのだから、「辞職するべき」と促すことは当然できる。だが、菅首相も、その当然の一言さえ言おうとはしないのだ。

しかし、菅首相が「辞職すべき」と言わないのは、「いまさら森氏の代わりがいないから」などという理由だけではない。むしろ、性別で差別をおこなうという森発言の問題の深刻さを、菅首相はいまだにわかっていないのではないか。

というのも、4・5日におこなわれた衆院予算委員会では、菅首相は森発言について、繰り返しこう述べていたからだ。

「オリンピック・パラリンピックの重要な理念である男女共同参画と異なるもので、あってはならない発言」

●「男女平等」という言葉をかたくなに使おうとせず「男女共同参画」に置き換える菅首相

五輪の重要な理念が「男女共同参画」……!? しかし、オリンピック憲章の根本原則に書かれているのは、〈このオリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会的な出身、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない〉というものであり、男女共同参画などという言葉は出てこない。

当然だ。1999年に施行された「男女共同参画社会基本法」や内閣府に設けられた「男女共同参画局」が象徴的なように、「男女共同参画」とは「男女平等」や「ジェンダー平等」を言い換えた行政用語だ(実際、内閣府は「男女共同参画」を英文では「Gender Equality」としている)。

ようするに、「オリンピックの重要な理念は男女平等」とか「性別・性的指向に基づく差別は禁じられている」とか言えばいいものを、菅首相は「男女平等」という言葉を避け、わざわざ「男女共同参画」なる差別という問題の本質をぼやかす言い換え用語を用いたのである。

この期に及んでも「男女平等」「性差別撤廃」とはけっして口にしない菅首相──。しかも、忘れてはならないことは、菅首相は性差別発言をスルーした前例があることだ。

それは、菅氏が総理に就任して9日後である、昨年9月25日に杉田水脈衆院議員がおこなった「女性はいくらでも嘘をつけますから」という発言だ。

このとんでもない暴言が飛び出したのは、自民党の内閣第一部会などの合同会議でのこと。女性への性暴力や性犯罪について議論するなかで、杉田議員は、来年度予算の概算要求を受け、女性への性暴力に対する相談事業について民間委託ではなく警察が積極的に関与するよう主張。そうした議論のなか、「女性はいくらでも嘘をつけますから」などと、女性被害者が虚偽申告するというような発言をおこなったとされている。

これは性犯罪の被害者攻撃をさらに助長するもので、断じて許されない暴言であり、森発言と同じように重大な性差別発言だ。

この発言以前にも杉田議員の暴言・性差別発言は何度も繰り返されてきたが、そんな杉田議員を自民党にスカウトしたのは安倍前首相であり、そのため自民党はまともな処分や調査をすることなく杉田議員を放置してきた。だが、その安倍氏が退いて菅首相へと政権が移ったことから、今度こそ厳しい処分が下るのではないかという期待もあった。

しかし、それはものの見事に打ち砕かれた。菅首相は杉田議員に対して何ら動こうともせず、自民党の下村政調会長が注意しただけで終わった。さらに、昨年10月13日には性暴力の根絶を訴える「フラワーデモ」の主催者らが自民党本部を訪ね、杉田議員の謝罪や議員辞職を求める13万筆超もの署名を渡そうとしたが、自民党側は受け取ることさえしなかった。そして、この問題について国会で問われても、菅首相は「国会議員の出処進退は自ら判断するもの」だの「個別の国会議員の発言にはコメントは差し控えたい」だの「(署名の)取り扱いは党の判断を尊重する」だのと素っ気ない答弁を繰り返したのだった。

●菅首相が官房長官時代、控えた女が好きかと聞かれ笑いながら「そっちのほうがいいですね へへへ」

こうした態度は、たんに事なかれ主義であるだとか、意識が低いというだけではない。菅首相については、「安倍前首相と違って極右的傾向がないからまだマシ」などという声もあったが、性差別という問題では、安倍首相と思考がほとんど同じなのである。

たとえば、官房長官時代の2015年9月には、福山雅治と吹石一恵の結婚に際して「ママさんたちが一緒に子どもを産みたいとか、そういうかたちで国家に貢献してくれればいい」「たくさん産んでください」とコメント。子どもを産むことを「国に貢献」することなのだと堂々と明言したこともある。また、昨年末の選択的夫婦別姓制度をめぐる議論でも、自民党の安倍チルドレンである極右議員からの猛反対を押し切るようなリーダーシップはまったく発揮せず、導入に向けて進展するどころか大幅に後退させてしまった。

さらに、菅首相は森会長とまったく同じように、女性の発言を封じ込めようとしていた。その典型が、東京新聞の望月衣塑子記者におこなった数々の嫌がらせだ。官房長官時代の菅首相は、会見の場で望月記者の質問に「あなたに答える必要はありません」「ここは質問に答える場所ではない」「その発言だったら、指しません」などと職責を放棄して暴言を吐き、官邸報道室長に質問を妨害・制限を加えさせ、内閣記者会に“望月記者をどうにかしろ”と恫喝をかけるような文書を送りつけていた。

森会長が「組織委の女性はわきまえている」とし、積極的に発言する女や、自分にとって不都合なことを言う女はわきまえていないと言わんばかりの発言をおこなったが、菅首相はまさに望月記者を「わきまえない女」として排除しようとしていたのだ。

その一方、2017年7月21日の会見ではフリージャーナリストの安積明子氏が、トランプ大統領が安倍昭恵氏について「ハローも言えない」とニューヨークタイムズで語ったことについて質問し、なぜか「女性からは矢継ぎ早にどんどんどんどん言われるよりも、やはりちょっと控えたほうがお好きなんでしょうか」という望月記者を当てこするような質問をおこなったのだが、菅官房長官は満面の笑みを浮かべながら「そっちの(控えた)ほうがいいですね。ヘッヘヘヘ」と答えていた。

この発言は、トーンが柔らかいだけで、今回の森首相とほとんど同じ。菅首相もまた「女は黙っておけ」という思想をもっていることを自ら開陳したものと言っていいだろう。

森会長の女性蔑視・性差別発言は、組織委やスポーツ界にとどまらず、政界や経済界、いや日本社会全体に蔓延っている問題だと指摘されている。ジェンダーギャップ指数ランキングで151カ国中121位(G7では最下位)というこの社会を変えようとしようにも、性差別を黙認する首相のもとでは不可能な話だろう。
(田岡尼)

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