<社説>菅氏長男接待問題 首相は説明責任を果たせ

 政権への忖度(そんたく)が疑われる事態がまたしても持ち上がった。菅義偉首相の長男による総務省幹部への接待問題だ。 利害関係者からの供応接待を禁じる国家公務員倫理規定に違反する可能性が高い。だが問題はそれだけではない。国民は別の観点からも注視している。政権中枢に近い人物に、官僚が便宜を図っているのではないかという疑念だ。

 菅氏は国民に向けて自ら説明する責任がある。共同通信が6、7日に実施した世論調査では62%が首相の説明に「納得できない」と答えている。「長男は別人格」という言い訳では済まされない。

 問題を報じた週刊文春によると、接待を受けたのは総務省ナンバー2の総務審議官や衛星放送の許認可権限を持つ情報流通行政局長ら4人だ。菅氏の長男は衛星放送のチャンネルを運営する放送事業会社に勤務している。

 放送行政を所管する総務省幹部でありながら、同局長は国会答弁で「当時は利害関係者に当たらないと思った」という認識を示している。

 長男は菅氏が総務相時代には政務秘書官を務めた。しかも携帯電話料金の引き下げなど、総務省所管の政策に意欲を傾ける最高権力者の息子である。利害関係者でないと思ったのであれば、会う理由は「首相の長男だから」以外に見当たらない。

 しかも接待があった2020年10~12月は、長男が勤務する企業の衛星放送が5年に1度ある総務省からの認定を更新する時期とも重なる。

 こうした状況は国会で明らかにされている。更新に何らかの配慮を求めるか、更新できたことへの返礼の接待ではなかったかと国民が疑うのは当然だ。菅氏が言う「私人のプライバシー」の話ではない。癒着すら疑われる状況で、国民の常識と懸け離れた答弁が通用すると思っているのか。

 菅氏は自民党総裁選があった昨年9月、政策の方向性に反対する中央省庁幹部は「異動してもらう」と明言した。

 要するに官僚による、専門的な視点からの提言や政策の修正は不要だということだ。忖度しなければ、あるいは言うことを聞かなければ「左遷する」と言っているに等しい。

 人事権を振りかざし、官僚に忖度を求めた結果、何が起きたか。安倍晋三前政権下では財務省が前首相夫人の関与を隠そうと森友学園への土地売却記録を書き換え、担当職員が自殺する悲劇があった。安倍氏の親友が理事長を務める加計学園の獣医学部新設では、文部科学省などの反対を安倍氏周辺が押し切り、便宜を図った疑惑がくすぶる。

 官僚は全体の奉仕者だ。一部の権力者に忖度すべきではないし、権力者の近親にも便宜を図るようなら国民から見放されるのは必至だ。

 菅氏は国民が納得する説明を果たすと同時に、「人事権を振りかざした官僚支配」は不祥事の温床だということを認識すべきである。

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