楽天石井監督が期待する“田中将大塾” 日米通算177勝の生きた素材が与える効果

楽天・田中将大【写真:荒川祐史】

森原へスプリット伝授「もうボール1個分前でリリースしたら、もっといい」

楽天に8年ぶりに復帰した田中将大投手は沖縄・金武キャンプ合流3日目の8日、キャッチボールなどで軽く汗を流して練習を終えた。しかしその後、ブルペンで後輩たちのピッチングを真剣な表情で見守り、身振り手振りを交えながらアドバイスを送る姿があった。日米通算177勝右腕は、個人成績のみならず、その豊かな経験をチームに伝授することも期待されている。

田中将はこの日、別メニューで自分の練習をいち早く終えると、Tシャツ、頭にはバンダナ風のヘアバンドを巻いたいで立ちでブルペンへ足を向けた。捕手の背後、時にはマウンドの後方から後輩たちのピッチングに熱い視線を送り、則本昂、森原、酒居には身振り手振りを交えながらアドバイスを送った。

前日の7日には、サブグラウンドで20歳の引地から質問を受け、自らボールの握ってみせながら丁寧に答える一幕があった。合流初日のあいさつで「気軽に聞いて下さい」と呼びかけた通りの立ち居振る舞いである。

森原の場合は、前日の練習終了後にスプリットの握りや投げ方について教えを乞い、アドバイスを受けた上で、この日ピッチングを披露した。「田中さんには『結構いいと思うよ! もうボール1個分、前(打者方向)でリリースしたらもっといい』と言っていただきました」と感激の面持ちだ。

「今日は、田中さんに教わった通りの握りで投げました。これまで僕はボールの縫い目を外して握っていましたが、田中さんは人さし指と親指を縫い目に掛けていました」と森原。「ワンバウンドを投げようとするのではなく、この握りで真っすぐと同じように腕を振ると、自然にすっと落ちるイメージ」と教わったという。

ブルペン脇で森原(右)と言葉を交わす楽天・田中将大【写真:荒川祐史】

石井監督も「選手同士の会話が1番成長につながる」

森原は昨季序盤に守護神を務め、開幕から9試合連続無失点の快進撃だったが、7月22日のオリックス戦で2/3回6失点と炎上したのをきっかけに失速。結局17試合1勝2敗4セーブ2ホールド、防御率7.56に終わった。“田中スプリット”を修得すれば、躍進のきっかけとなる可能性は十分秘めている。

石井一久GM兼監督は「選手同士の会話が1番成長につながる。コーチとのディスカッションももちろん大事だが、体の使い方や感覚的なことは(現役同士の方が)伝わりやすい」とうなずく。その上で「成長する過程で、自分から聞きに行く勇気も大事だと思う」と付け加えた。

小山伸一郎投手コーチも、田中将とは現役時代から同僚として仲が良かっただけに、積極的に若手との橋渡し役を務めている。

昭和の時代には、「同僚や後輩といえども、1軍や先発要員の枠を争うライバルなのだから、自分の技術は教えない」という考えの選手も多かった。「教えてほしかったらカネを持ってこい!」と一喝する選手もいたほどだ。しかし時代は変わり、兄貴分のダルビッシュ有投手など、田中将も基本的に礼儀を尽くして質問して来る選手には、惜しみなく技術や知識を教えている。

「チームにとってプラスになるなら、自分が知っていることや知識をどんどん伝えていきたい。隠すことはない」とキッパリ。ただし、「こちらから押し付けるようなことはしたくない。『調子どうや?』とこちらから声をかけることはあっても、あくまで『聞いてくれればなんでも答える』というスタンスでいきたい」と強調した。

急転直下だったが、田中将とチームメートになれた選手はやはり願ってもないチャンスだ。ここまで言われて、質問しに行かない手はないだろう。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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