元ハム田中幸雄氏が語る稲葉篤紀の“思考” 2000本安打の両者で異なる打撃論とは?

ヤクルト・日本ハムで活躍し侍ジャパンでもWBC優勝を経験した稲葉篤紀氏【写真:Getty Images】

日本ハムで2000安打を達成した田中幸雄氏、データの重要性を語る

高度な計測機器が発達し、選手の能力や状態が数値化される現代。情報戦が繰り広げられる中、さまざまなタイプの選手がいる。2000安打を達成してミスター・ファイターズと呼ばれた田中幸雄氏は、試合前のミーティングで示される映像などをあまり参考にしなかったという。

「正直、来たボールに対して、どう対応して行くかということしか頭になかったです。ただ、引退してコーチになってから、情報を頭に入れなければできない選手もいるんだなと感じた時に、自分も現役中にやっていれば、もうちょっと結果は良かったんじゃないかと思うようになりました」

データの重要性を感じ始めたきっかけは、現在、侍ジャパントップチーム代表の監督を務める稲葉篤紀氏の存在だった。05年にヤクルトから日本ハムに移籍した稲葉氏は、06年から4年連続3割をマークし、07年には打率.334で首位打者のタイトルを獲得している。

「打率も残すし、いいところで打つじゃないですか。ずっと見ていると、いろいろ考えて配球を読んだりしているんだなと感じました。相手が一流ピッチャーになればなるほど打てないものなので、球種を読んだり、コースで張ったり。追い込まれて、明らかにフォークだと思った時はバットを振らないとか。最初はど真ん中に真っすぐが来たのに、なんで振らないんだろうと思っていたのですが、それは配球の読みなんですよね。ここでたぶんフォークを放ってくるだろうということで、振らないと決めている。その駆け引きでしょうね」

田中氏の場合は、基本的に初球は外角直球狙いで打席に立ち、タイミングが合えば、変化球も打っていくというスタイルだった。

「来た球を打てれば、最強です。自分の中ではそれをやろうと思っていたんです。真っすぐを待って、変化球を全部対応しようと。だからカーブやスライダーはもちろん、フォークを待ったこともありません。それを見逃したり、ファウルにできたら、もう少し率も良かったのかもしれませんね。ストレートばかり待っていたら、フォークに(バットが)くるくる回りますよ。三振が多かったのは、そういうところでしょう」

日本ハムで活躍した田中幸雄氏【写真:荒川祐史】

野村克也氏の考え方を叩き込まれていた稲葉氏の打撃

稲葉氏を観察して気づいた打者としてのタイプの違い。同時に育った環境の違いも感じたという。

「(稲葉氏はヤクルト時代に)野村(克也)さんの野球を経験しているじゃないですか。ミーティングでそういうことをすごく叩き込まれているんだと思いましたね」

田中氏が日本ハムの2軍監督に就任した15年には、2軍でも1軍と同じようにバッテリーと野手に分かれて、試合前のミーティングを行うようになっていた。

「いいことだと思いますよ。昔は2軍の選手にはそういうものはありませんでしたが、僕なんかも若い頃からそういう教育というか指導を受けていれば、自分の野球も変わったかもしれないですしね。今はすごくたくさんいいものを提供してもらっていると思うので、どれだけ参考にしてどれだけプラスにできるか。個人個人によって、チョイスするものは違うと思います」

質量ともに厚みを増していく情報をどのように処理して生かしていくのか。情報戦、頭脳戦、心理戦…目に見えないところにもプロ野球のドラマはある。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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