ドイツの火葬場、ひつぎ山積みに コロナで死者倍増、遺体「焼き続ける」

 ドイツは昨年秋から、新型コロナウイルス流行の第2波に見舞われている。昨年春のコロナ流行時には大量の検査とともに、世界有数の集中治療病床に重症者を収容して死亡率を抑え込み、成功例として各国で注目された。だが、夏のバカンス期を経て人々の気が緩んだ上、第2波では当初、周辺国と比べて軽い規制にとどまり、被害拡大を招いた。コロナの死亡率が国内最悪レベルの東部ザクセン州では火葬場に運び込まれる死者が倍増し、ひつぎが山積みになった。職員は「昼も夜も遺体を焼いている」と話した。(共同通信=森岡隆)

ドイツ東部マイセンの火葬場の祭礼用ホールに山積みされたひつぎ。このうち半分にコロナの死者が眠る=1月(共同)

 ▽火葬を待つ

 「コロナ」「感染注意!」。ひつぎに白いチョークで記された走り書きが目に飛び込む。中で眠るのは新型コロナウイルスの死者だ。92歳の女性、80歳の男性―。その遺体は密閉した袋に入れられ、真新しいひつぎに納まる。上下2段に隙間なく延々と続くひつぎの山。死者の半分がコロナの犠牲者だ。

火葬場の施設内で、新型コロナウイルス感染症を意味する「Covid」とチョークで書かれたコロナ患者のひつぎ。中の遺体は密閉した特別な袋に入れられている=1月(共同)

 磁器で世界的に知られるザクセン州の都市マイセン。旧市街近くの高台にある火葬場では夜通し明かりがともり、2台の炉が24時間稼働する。死者は平均80代半ば。ザクセン州は住民の高齢化などが指摘され、死者が激増した。

 

 異変が始まったのは昨年11月だった。葬儀社が州内や近隣州から運んでくるひつぎが日ごとに増えていった。本来の安置場所の保冷室は職員の通り道を残して足の踏み場がなくなり、12月には併設の祭礼用ホールの床一面に積み重ねるようになった。記者が現地を訪れた1月、火葬を待つひつぎは例年の2倍以上の約300を数えた。集中治療病床で息を引き取った遺体が最も多い。

24時間稼働する火葬場の炉と火葬を待つひつぎ=1月(共同)

 ▽24時間操業

 「24人の職員が3交代で働く。昼も夜も週末も関係ない。文字通りの終日操業。過去30年間の勤務で、こんなことは初めてだ」とイェルク・シャールダッハ所長(57)。昨年11月は1300体、12月には1500体、今年1月にも1600体を焼いた。施設には葬儀社の車が次々と到着し、ひつぎを引き渡していく。葬儀社の担当者は「ここにはよく来る。仕事量はあまりに多い」。

ひつぎ置き場となった火葬場の祭礼用ホールで状況を説明するシャールダッハ所長。左手で触れているのは新型コロナウイルス患者が眠るひつぎで、ふたに「コロナ」と記されている=1月(共同)

 火葬場の職員は置き場を探し、日々その場所を入れ替え、地下に備え付けられた炉に運んでいく。死者たちが眠る木のひつぎは重く、力仕事が連日繰り返される。コロナの死者でも他の病気の死者でも、取り扱いは同じだ。

マイセンの火葬場の祭礼用ホールで、死者を納めたひつぎを運ぶ職員=1月(共同)

 ドイツでは昨年10月に新規感染者が一気に増え、春の被害規模をすぐに上回った。政府は翌月、生活必需品を除く店舗の閉鎖に乗り出したが、感染者と死者数は増加の一途をたどり、不安が国中を覆った。

 今年1月中旬には1日の死者が1244人と過去最多を記録。被害はその後、減少に転じ始めたが、全土の集中治療病床で治療を受ける重症のコロナ患者は約4千人と、春のピーク時の1・3倍に達する。変異株の感染者も少数ながら徐々に広がってきた。

葬儀社の車(手前)が次々と到着する火葬場=1月(共同)

 ▽この先も

 コロナ禍では患者の家族も苦悩する。感染の危険から、コロナで死にひんした病床の肉親を見舞うことは許されず、手を握ることも体を抱きしめることもできない。

 そうした家族が訪れるザクセン州の公営墓地のエベリン・ミューレ所長は「コロナ患者は独りで死んでいく。誰かが病床に寄り添えても、防護服姿(の医療従事者)だ」とため息をつく。

 火葬場のシャールダッハ所長は国内各地の死者増加率を見て表情を曇らせる。「首都ベルリンやその周辺の火葬場も近い将来、似た状況に襲われると思う。これがコロナ被害の現実で、ここは始まりにすぎない」

職員の通り道を残してひつぎが置かれた火葬場の保冷室=1月(共同)

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