男に搾取・消費されるトップレスはやめた
──もう、最高で完璧なハードコア!
イライザ:ありがとうございます。
──ダイナミックなガレージ感が凄くいい。ミックスは中村宗一郎さん。
イライザ:宗ちゃんとは何度も一緒にやってるからやりたいことをとてもわかってくれていて。ディレクションはBorisのATSUOさん。ATSUOさんもずっと一緒にやっていてわかってくれていて、こっちが考えるより先にどんどん考えてくれる。助かってるわ(笑)。私はわかり合える人と作っていきたいの。すべてにおいて自分の目が行き届いていること、自分が管理できることしかやりたくないの。
──配信でリリースの今作は、デジタルアルバムとして購入すれば歌詞がつきます。この刺さりまくる歌詞は英詞でも読める。
イライザ:そうなの! 歌詞は絶対に読んで欲しい。もともとはタイトルのみ英訳する予定で何人かにタイトルの英表記を聞いたら、Takeshiさん[Takeshi Evolstak(NŌ, ex.C.F.D.L)]から歌詞も送って欲しいと言われ、それを読んだ彼が「素晴らしいから歌詞を英語にしてみた」って。もう凄くありがたい!
──英詞も凄くいいですよね。
イライザ:素晴らしいですよね。私は手に取って形として残していける「盤」が大好きなんだけど、配信は海外の人にもすぐに聴いてもらえたり、いいとこがたくさんある。英詞をつけてくれてホントありがたい。
──ジャケ写もアー写もMVもカッコイイ。
イライザ:ジャケ写はキャプテン・センシブルの7インチのレコードのオマージュ。
──アー写はセクシーな4人の挑んでくるような眼差しが印象的です。だいぶ前だけどイライザさんはツイッターで、「自分がしてきたセクシーなスタイルは、男に搾取されているものだと気づいた」っていうようなことをツイートしていたと思うけど…。
イライザ:そうね、してたかもしれないわね。
──搾取されてると気づいて意識をアップデートできたっていうのも凄いけど、そこでセクシーなスタイルをやめるんじゃなく続けている。それって、男のためじゃなく自分のためだっていう意思表示なんだなと。
イライザ:そうなんですけど、トップレスはやめたってことで、匙加減なのよ(笑)。バンドを始めた20代の頃、トップレスでステージに立っていたことがあったの。イギー・ポップ、スージー・スー、スリッツとか、カッコイイ人ってみんなトップレスになるじゃない? だからトップレスでライブをやるのはロックやパンクでは当たり前って思ってたわけ。そしたら世間はそうじゃなかった。それに気づいたのは、90年代、2000年になってからかな、映画『死霊の盆踊り』のイベントがあって。関係者からトップレスのダンサーを集めてるから出てよって言われて。そのとき、あ、私はただのオッパイ要員になってるなって気づいたの。搾取されてる、消費されていくんだって。
──ライブでのトップレスとは意味が全然違うもんね。
イライザ:そう。そのイベントのスタッフも私になんらシンパシーがあるわけじゃなく、単にトップレスの女がいるとパーティーが盛り上がる、それだけの理由よね。
──卑猥な視線を送る人もいるだろうし。
イライザ:そうそう。
──でも、ロック好きでさえも卑猥な視線の人はいるかもしれない。
イライザ:残念なことにいるでしょうね。パンクのアーティストがトップレスなのは、アゲインストの姿勢があったと思うの。私もそう。そこをわかってくれてた人は絶対にいるんです。でも卑猥な視線の人もいて、搾取して消費されるものなんだって気づいた。だからトップレスはやらないって決めたの。もちろん自分がやりたいスタイルはやっていくわ。ただ私、おんなおんなしているものが実は凄い好きなのよ。人によっては女性バンドとか、「女性」ってつくことを嫌う人もいるけど…。
──男性バンドとは言わないからね。
イライザ:そうそう。でも私は全然オッケーで。女優って単語も大好き。もう特別な存在よね、女優って。女王も好き。
──イライザさん自身が女王ですからね。
イライザ:そうなの。私、王道なのが意外と好きなの。女優、女王、女性ハードコアバンド、全然オッケー!
──うん。いろいろな考え方があるってことを示していることもフェミニズムだと思います。
イライザ:そうよね。フェミニズムって一枚岩じゃないのよ。
死んだからって許してたまるか
──ホントそう思う。今はネットがあるからかフェミニズムも広がってきているけど、イライザさんは昔からフェミニストですよね。
イライザ:大学で女性学を取得しましたとかそんなレベルじゃないんだけど、ずっと意識はしていました。20代の頃に穴奴隷で『We'll break male's fantasy. Fuck your myth of musculinity. Full of anger e.p.』、日本語だと『有害な男性性に対するファック』っていう7インチをリリースしたし。だから搾取にも敏感だったのね。
──ライブで配るチラシにも、以前からメッセージを書いてたよね。多くのバンドはライブの日程だけなのに、イライザさんはメッセージを書いていた。素晴らしいアイディアだなと思ってました。
イライザ:今もたまに発行しているイライザ新聞。かなり昔からライブで配ってたんですよ。動物実験反対とか女性差別についてメッセージを書いてね。昔、穴奴隷をやってた頃、ハードコアをやりたくて。私は穴奴隷ではギターでノイズをガンガン出しててノイズコアをやりたくてね。歌詞もどんどんポリティカルになっていったのね。でもね、だんだん息が詰まってやりきれなくなっていって。私の歌詞は本当に自分に起きた出来事を書いてるんです。穴奴隷の頃の歌詞は、アメリカのイラク侵攻反対デモに行ってたりヴィーガンだったりして、いろいろ学んだことを書いて。でもちょっとしんどいわ~って無性にロックンロールがやりたくなって。サタデーナイト! パーティーに行こう! って空っぽなやつ(笑)。今、10年以上経って戻ってきたっていうか、辿り着いたっていう感じ。
──メッセージとハードコアなサウンドがビシッと合致したのが今作。
イライザ:うん。今回の歌詞はパーソナル過ぎて。ホントに泣きながら、熱も出しながら書いたの。作るたびに寝込むのよ(笑)。楽しい作業ではなかった。なんていうの、禊みたいな感じかな。人生その繰り返しよ。
──コロナで自粛のときに作ったの?
イライザ:コロナ云々になる前にレコーディングして。曲を作ったのはもっと前で、2年ちょい前ぐらい。兄が死んだ後ね。兄が死んだことによって書こうって思って。
──前にちょっと話してくれましたよね、お兄さんのこと。
イライザ:具体的な話をすると、兄は2年ちょい前に死んだんだけど、兄には15才から会ってなくて。葬式にも出なかった。兄はセックス&バイオレンスの人で、そんな人と一緒に住んでたら私が標的にされる。私が15のときにレイプしようとしてきた。実の兄がよ。キモッて思って家出して。兄は精神を病んではいたんだけど、耐えられないですよ。私は家出先から高校に通ってたの。そしたら母親が学校の側で張り込んでいて、自分も家を出るから一緒に暮らそうって、母親とアパートで暮らしてたの。父親は競馬に狂ってたからね。そんな10代よ。世の中はよく「許せ」って言う。許すって文化があるじゃない? 許すことによって自分が成長する、次のステージに行けるみたいな考え方。でも私は、もしそれで成長したとしても絶対に許したくない。改めて曲にして…、よく死が免罪符になるっていうけど…。
──死んだ人のこと悪く言うなとかね。
イライザ:そうそう。死んだからって許してたまるかって思っていて。なかったことにするなんて絶対にできない。そこで書いた曲が「征服されざる者」。サマセット・モームの小説に「征服されざる者」って短編があって、そこから。原題は「THE UNCONQUERED」で今回のe.p.のタイトルにしたの。小説の内容は戦争中の話で、村に兵士が来て村の娘をレイプする。娘は妊娠するのね。戦争が終わって、兵士はレイプしたけど好きだから結婚してくれって娘の親に取り入って。親も結婚してもいいんじゃねぇかって。娘はレイプでできた子どもを産んでいて、その子どもを川に沈めて殺すの。なんか、凄いその気持ちわかるなって。子どもに罪はないっていうけど、そうであってもレイプした男を許すつもりはない。強い意志よね。
──加害者との結婚を親も認めるなんて、もう孤立無援だよね。
イライザ:そうそう。怒りの感情って、本当に嘘がないんですよ。本当に!
──私はイライザさんと同じ経験はしていないから傍観者の視点もあるかもしれない。でもやっぱり傍観者にはなれないんだよね。私自身にもきっとどこか体験してることで。
イライザ:そう。すべての女の普遍的なことだと思う。
──怒りが湧くし刺さるし涙が出るしグッとくる。それは自分の体験を歌うイライザさんの勇気に感動したのと同時に、きっと自分の心にもあるものだからだと。だから感動したんだと思う。
イライザ:そうだと思う。女性の中に絶対にあるものだと思う。凄くパーソナルであり、普遍的なテーマでもあるのよ。
──ホントに“me too”なんだよね。
イライザ:そうそう。たとえば私の経験は実の兄からの性暴力なんだけど、でも結婚して、ファミリーがあって、そこで虐げられてる女性も「征服されざる者」である女だし。各々の立場や居場所は違っても、すべての女がそうなんだと思う。私は『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んでとても共感したんだけど、私の環境はキム・ジヨンとは違う。でも、わかるわかるって読んでいた。だからね、すべての女たちの苦悩が含まれるのよ、「征服されざる者」っていう言葉に。
──うんうん。だから曲の中でコーラスがフィーチャーされているし、今作のジャケ写もメンバー4人それぞれのキャラクターや顔が見えるよね。それが凄くいい!
イライザ:メンバーそれぞれがそれぞれの場において絶対に経験してることなのよ。どんなに楽しく暮らしてる人でも女ゆえの苦悩は絶対にある。私のバンドのメンバーはそれぞれで自覚している。だから一緒にやってるの。亭主関白最高! って人はメンバーにいないからね(笑)。
家とか血縁とか絆とかを信じてない家庭だってある
──今回の3曲は、どれも女性差別を憎んでいる。
イライザ:「家父長制にツバを吐け」は、私は家というものを信じてなくて。もともとの発端は兄であったり、あとうちの父がゲイなの。でも昔の時代の人だから、いつまでも一人じゃいられないってお見合いして母と結婚したの。父は家庭や子どもに興味がなくて。競馬に狂っててどうしようもなくて。だから私は家ってものを信じてないし、恐怖でしかない。そんな家庭だってあるのに、今の政権って家の信仰が凄いじゃない? 家とか血縁とか絆とか。恐ろしい。
──家父長制こそが女性差別を作ってるものだよね。
イライザ:そうそう。根源よね。
──自民党の改憲案は家庭第一とか言って女を家に閉じ込めておく、前時代的なものだし。
イライザ:そうそう。家父長制なんてものが未だに通用してる、恐ろしいわよ。同じ意見でも男性が言えば何も言われないけど、女性が言えば叩く。女性に対するその態度、日本は異常よね。政治家といういわゆる国の代表が女性蔑視してるんだから、ホント異常。
──女性差別だって気づいてない男性もいるしね。
イライザ:そうそう! 家父長制のもとで育ってきたからか、女性差別に無自覚な人が多すぎ。女性の上に立とうとする。そのくせ甘えてくる。
──そうそう! 女はお母さんじゃないぞ。対等に接しろってだけなのにね。
イライザ:そうそう! 崇めて欲しいわけじゃないのよ。たとえば、「女性には敵わないですよ、手の平で転がされてますよ」とか言ってるのも気持ち悪い。
──気持ち悪い!
イライザ:ねぇ。イヤだよねぇ。「女房には頭が上がらないですよ」とかゲェ~って思う。そう言っとけばいいやって思ってるのよね。そうじゃなく対等に、人間対人間で敬意をもって接してくれってだけの話。私はそういうことを自分の仕事でより知ることができたの。私の職業はSMの女王で。
──うんうん。
イライザ:自分がSMに身を置いて思うことは、マゾヒストの男性って男らしい姿をすべて放棄したくて、それでマゾという資質を自分に見つけ出したと思うのね。すべてを放棄した立場で、私という女王と対峙したいわけ。私のところに来るお客さんは、自分はどういう人間で、どういう弱さがあり、その上で何を求めているか、ちゃんとわかった上で来るの。素晴らしいなって。そういう意味で敬意を払ってるの、マゾ男性に。
──女王とマゾ男性って実は対等なんだ。
イライザ:そう。自分の弱いところを理解しているって凄いことなの。理解して自覚しているから、だから私のところに来る。もう敬意以外ないわよね。言ってしまえば変態性ってものを自覚している人が、自覚しているから行ける場所が私の仕事場なの。だから私は自分の仕事に誇りを持ってるの。
──うんうん。逃げ場所で居場所。そういう場を作ってる。素晴らしいなぁ。でね、今回の3曲は作ってからリリースまで時間が経ってたわけで。
イライザ:そう。曲を作ったのがだいたい2年ちょい前、レコーディングがコロナの前、そしてリリースが2021年の今。
──思ったこと、体験したことは、すぐに曲にするってことだけど…。
イライザ:貧乏性なのよ(笑)。そのとき、思ってることを曲にしないと気が済まない。たとえば恋愛してたら、今ラブソング作らなきゃもったいない! このめくるめく愛の日々を歌わなきゃもったいない! って思っちゃうの(笑)。今回のようなヘヴィな曲も、好き好きボーイフレンドみたいな曲も、それは同じなの。熱いうちに書きたいの。
──でも今回はリリースまで時間が経っていて。
イライザ:それがね、時間が経っても、何度歌っても、泣いちゃう。
──うん。
イライザ:泣いちゃうし、怒り再現みたいな。怒りはどんどん出てくる。辛い!
──それでも歌う。
イライザ:うん。歌うわ。なんなんだろうね。何回歌っても泣くし、ライブでもMCしながらたぶん泣いちゃう。怒りっていうのは、たぶん風化されないのよ。
──あたしも子どもの頃、最初に痴漢に遭ったときのこと未だに覚えてるよ。
イライザ:そうよね。私も。全然風化されない。
──たとえば性被害に遭って、時間が経ってから訴える事案があるけど、何年も前のことを今頃? ではないんだよね。
イライザ:何年も経ってやっと話せるようになったのよね。やっと。その時間にどれだけ苦しんだか。これからだって苦しいし。
それぞれ違う環境で生きてるんだし、一枚岩になることはない
──もうさ、曲もサウンドも歌詞も、激しさ、怒り、すべてカッコイイし感動的だし。でもなんていうかな、それで済ませてはいけないなという思いも出てきて。“me too”と思ったなら、自分はどうするか考えなきゃっていう。
イライザ:うん。でも私、ユニティ! みんな立ち上がれ! みたいなことは思ってなくて。受け止めるだけでいい。共鳴してくれたら嬉しいけど、私はアクティビストになって頑張るぞ! って気負いはないし。何かやるにしても自分の匙加減でやってくれればいい。それぞれ違う環境で生きてるんだし、一枚岩になることはないのよ。それぞれが自分のことを思ってくれればいいなって。
──そうですね。シスターフッドっていうのも同じ考えの女性というより、違う考えであっても尊重しようってことが土台にあると私も思うし。
イライザ:「女の敵は女」っていうのも男が言ってることよね。男が女を分断させて喜んでるのよ。
──ホントそう! そんなのに女は騙されないぞ。あ、まゆたんが来ました!
まゆたん:すみません!
──メチャメチャカッコイイe.p.です! 「わかんねぇならクソして寝てな」のドラムからスタートするとこや中盤の4人のコーラスでグッとテンポを落とすとこ、凄くいい!
まゆたん:やってても気持ち良かったです! イラちゃんはちゃんとイメージを持っていて、こういう感じでって伝えてくれるんです。そのイメージをメンバーで共有して、自然にあの感じになっていきました。
──歌詞については?
まゆたん:歌詞は真ん中にしようって意識しました。イラちゃんの歌詞はイラちゃんのパーソナルなことだけど、自分にもあるものだって感じます。それはいつもそう。もしかしたらスタジオとかでいろいろ話をするからかも。曲のこととか雑談みたいな感じで。同じ体験をしてなくても共感することが凄くある。ストレートに伝わってくる。今回もすぐ曲に入り込めました。
イライザ:そうだ、ジャケットのうさぎはまゆたんの家のうさぎなのよね。
まゆたん:そうなんです。私はうさぎやリクガメ、チンチラ、モルモット、デグー、リチャードソンジリスと暮らしています。
イライザ:メンバー全員が動物好きで。ホントは私の家のぽんちゃんをジャケットにって言ったんだけど、軽くスルーされたわ(笑)。
──ぽんちゃんはテディベアでは…?(笑)
イライザ:生き物です(笑)。