<大ヒット盤>Eve『廻廻奇譚/蒼のワルツ』共感誘う深い物語性

 2019年にメジャーデビューしたネット発のシンガーソングライターの初となる7曲入りEP盤。メジャー3年目とはいえ、公式YouTubeチャンネルの登録者数が250万人以上、ミュージックビデオの総再生回数が8億回以上と、ネット界隈では凄まじい人気で、実際に聴くとその理由も納得がいく。

 なんといっても『廻廻奇譚』がインパクト絶大だ。混沌とした世界から抜け出そうとする主人公が描かれているが、その物語性の深さに感心する。歪んだ声で憂うつな感情を呟くAメロ、そこから抜け出そうと駆け出すBメロ、そしてシャープな高音で「闇を祓って」「まだ止めないで」とシャウト気味に熱唱するサビは、今の時代だからこそ多くの人が共感するだろう。

 2曲目以降も実に多彩で驚くばかり。ざらついた低音と、か細い高音で、生きたいと歌う『蒼のワルツ』、誰かと繋がろうと爽快に歌う『心海』、前半の繰り返されるギター演奏と後半のダンスビートの対比がドラマティックな『宵の明星』と、若さゆえの心の揺れが見事に描かれていて、どの作品も夏の太陽のように眩しい。

 さらに『遊遊冥冥』は80年代ニューミュージック風だし、ストレートに相手への想いを描いた『約束』はフォーク世代にも刺さりそうだし、ラストの『杪夏』も夏が終わる様子が、寂しげな歌声と優しいメロディーで丁寧に描かれている。

 どれも緻密に構築された日本語詞と、これから始まるドラマへと繋がるイントロが印象的。新世代アーティストでありながら、実は大御所のような持ち味が、新しいのに懐かしく感じさせるのだろう。本作を聴き終わったら、世代の異なる人への苦言が極端に減るはず。

(トイズファクトリー・通常盤 1818円+税)=臼井孝

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