“強豪”同士の対決!維新の新人か、無所属の現職か!? 四條畷市長選ルポ・上(フリーライター・畠山理仁)

「2期目を目指す現職」対「市議選トップ当選の新人」

「2期目を目指す現職」対「市議選トップ当選の新人」──。そんな“強豪”同士の対決となったのが、昨年12月20日告示・12月27日投開票の四條畷市長選挙である。

大阪府東北部に位置する四條畷市は、東西約7.3km、南北約5.4km、人口約5万5千人のコンパクトな市だ。大阪市内までは電車で20分圏内。緑豊かなベッドタウンである。

今回の市長選挙は、現職と新人の一騎打ちになった。候補者はいずれも30代。現職の東修平(あずましゅうへい・32歳)氏は無所属の全国最年少市長。新人の土井一慶(どいかずよし・39歳)氏は大阪維新の会が公認する前市議だ。多くの人が知っているように、大阪維新の会は大阪で圧倒的な強さを誇っている。

実はこの選挙にはドラマがある。東氏は4年前に新人として立候補した市長選挙で、当時の現職・土井一憲(かずのり)市長と戦った。その結果、10,659票を獲得。8,407票の土井氏に2252票の差をつけて勝利した。今回の市長選で東氏の対立候補となった土井一慶(かずよし)氏は、前回市長選で破れた土井一憲前市長の息子である。

一慶氏は2019年4月、四條畷市議会議員選挙に立候補し、新人ながら4084票でトップ当選を果たした人物だ。選挙を追う者として、この選挙を見逃すわけにはいかなかった。

大阪維新の会は、なぜ強いのか。

12月25日金曜日。私は市長選の最終盤を取材するため、東京から車で現地入りした。移動手段を車にしたのは、新型コロナウイルス感染症のリスクを軽減するためだ。

四條畷市内には夕方に到着した。初めて訪れた市役所前の大通りは明るい。しかし、一本内側に入ると道幅がぐっと狭くなる。そして、夜道はそれほど明るくない。

それでも市内のあちこちで、吉村洋文・大阪府知事の顔写真入りポスターを見つけた。街中には他にも多くの政党や政治家のポスターが貼られていたが、一番多かったのが大阪維新の会のものだった。

10分ほど市内を走っただけで、なぜ「大阪維新の会」が強いのかがわかる。圧倒的に目に触れる機会が多い。接触機会の多い政党や政治家は、当然、選挙でも強い。しかも、土井氏は政治家一家の三代目だ。祖父も政治家、父は前市長。一慶氏自身も市内で生まれ育ち、青年会議所での活動経験もある。加えて市長選挙と同時に行われる市議補選には、大阪維新の会の公認候補も立候補した。市長候補と市議候補の選挙カーが同時に市内を走れば、選挙で得票を上積みする相乗効果も見込まれる。

東氏は全国的に注目された最年少市長だ。しかし、大阪維新の会の組織力、活動量は目に見える。この段階では、どちらが優勢なのか全くわからなかった。

 

コロナ対策で選挙運動量は減少…。

現職の東氏にはもう一つ大きな不安要素があった。それは新型コロナウイルス感染症の拡大による選挙運動量の物理的な減少だ。四條畷市でも選挙中に感染者が出ていたため、現職の東氏は公務やコロナ対応を最優先しなければならなかった。

選挙運動に時間を割けるのは公務時間外のみ。街頭に出られるのは12時15分〜45分の昼休みと、夕方5時15分以降〜20時までの限られた時間だ。室内での集会も開けない。特別職である市長に「定時」はないが、選挙期間中の運動量は、市議を辞して挑戦した土井氏が圧倒していた。

私は四條畷市に到着すると、まずは土井氏の選挙事務所を訪ねた。土井氏の選挙事務所は府道に面していて車通りも多い。市議補選に立候補している柳生しゅんすけ氏との合同事務所であったことから、スタッフも多くにぎやかだ。

元は焼き鳥屋だった広い事務所の壁には、日本維新の会の国会議員、大阪維新の会の府議会議員からの為書が並んでいた。必勝祈願の胡蝶蘭もたくさん飾られていた。

「『2期目の現職は一番強い』というのが選挙の世界の常識です。その強敵にどこまで迫れるかという戦いですね」

資料をもらうためのアポなし訪問だったが、日本維新の会の藤田文武衆議院議員が対応してくれた。藤田氏の地元は大阪12区(寝屋川市、大東市、四條畷市)。藤田氏をはじめ、事務所にいる人たちは「維新」のイメージカラーであるライトグリーンの上着を着ていた。

明るい色は街中でも目立つ。選挙戦最終日には、同じ色の上着を着た人たちを市内のあちこちで見かけた。その数の多さを見た東陣営のスタッフは私に正直な気持ちを打ち明けた。

「維新のすごさは圧倒的な活動量。こちらには4年の実績があるので安心しているところもありますが、維新に飲み込まれそうで怖いです」

驚くのは、これでも維新が動員する人たちの数を絞っていたことだ。

「コロナ禍で行われる選挙ですから、大規模な動員はかけていません。集めようと思えば200人〜300人は集められますが、出陣式の時も100人程度に抑えました。コロナで屋内集会もできないので空中戦が中心です。明日の最終日のマイク納めも一部の人にしか声をかけていません。出陣式と同じ100人程度になる予定です」

藤田議員はそう言った後、ポツリとこぼした。

「SNSで『四條畷 選挙』と検索すると、維新の悪口がすぐ見つかりますよ。『イソジン吉村』とか。現職は無所属ですが、選挙の構図は『維新VSそれ以外』。『敵の敵は味方』ということなんでしょう。自民党のポスターの上に現職のポスターが貼られている場所もありましたし、共産党も現職を支援しているんじゃないでしょうか」

 

「選挙での貸し借りを市政に持ち込まない」姿勢。

土井氏の事務所を後にして東氏の事務所向かった。東氏の事務所は市内北部の「忍ケ丘」駅から歩いて4分ほどの商店街の中にあった。事務所前の人通りはそれほど多くない。開けっ放しになっているドアから中を覗くと、東修平後援会の棧敷雄二会長が対応してくれた。

「しゅうちゃん、って呼んだらあかんけど、私は彼を幼稚園から知っているんです。私の長女の幼稚園時代の幼馴染でね。合唱団で海外に遠征したり、東京の大会に一緒に行ったりもしました。私は選挙のことは何も知らなかったやけど、4年前の市長選の時に『後援会長になってくれませんか』って頼まれてね。それで引き受けたんです」

後援会の規模はどれくらいなのか。そう聞くと、会長の口から驚くべき数字が飛び出した。

「3人です。私と事務局長、しゅうちゃんのお姉さんだけ。4年前に初めて市長選に出たときと同じメンバーです」

たったそれだけ? それだけで勝てたのか? 私が心配になって尋ねると、「後援会とは別に自主的に応援してくれる会がある」という。

「そちらは50人ぐらいの方がいらっしゃいます。そのメンバーの78歳の人が選挙カーを運転手をしてくれています」

それでも維新の動員数には遠く及ばない。どうしてこれで勝てるのか。私が不思議そうな顔をしていると、選挙を手伝う人たちが口々に東氏の強みを語りだした。

「東さんのすごいところは、自民党、連合、共産党からもくる応援演説の依頼をすべて断っているところです。政策協定付きの献金も断っています。一切しがらみをつくらない。選挙での貸し借りを市政に持ち込まないという姿勢をずっと貫いている人なんです」

投票日は明日だ。まだ選挙結果は出ていない。しかし、陣営のスタッフは東氏の勝利を確信しているようだ。私のようなよそ者から見れば、維新の物量作戦、人海戦術は東陣営を圧倒している。東氏の支援者たちは、なぜここまで安心して戦っているのだろう。

「東さんはこの4年間で、約150回の対話集会をやってきたんです。一度の対話集会の参加人数は20人〜30人。なによりすごいのは、質問時間が無制限。市民と徹底的な対話を重ねてきたことが東さんの一番の強みです。四條畷市の日々の暮らしは変化も実感できる。有権者のみなさんも、そこはわかってくれていると思います」

(「“強豪”同士の対決!維新の新人か、無所属の現職か!? 四條畷市長選ルポ・下」に続く)

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